奈良国立博物館の第77回正倉院展の翌日、エミとサキの二人は京都国立博物館の特別展「宋元仏画―蒼海(うみ)を越えたほとけたち」に行ってきました。
前期も行ったエミに連れられて、サキは初めての京博に大満足でした。
初めての山水画へのダイブイン
サキ: 「はぁ〜……すごかった。京博の『宋元仏画展』後期、本当に来てよかったね。」
エミ: 「うん……すごかった……。ちょっと今、言葉がうまく出てこないかも。私、実はあの牧谿の部屋だけじゃなくて、その手前の部屋でもうダメだったんだ。」
サキ: 「え、もしかして…あ!李唐筆の国宝《山水図》?」
エミ: 「そう。あの山水画の前で、私、気づいたら涙が止まらなくなってて。」
サキ: 「やっぱり!あのとき、エミちゃん完全に絵の中に入っていたんだね。しばらく声かけられなかったよ。」
エミ: 「私、初めて『山水図の中に没入できた』って思ったの。本当にあの絵の中の空気とか湿度を感じてて…。でも、サキちゃんが声かけてくれなかったら、この世に戻ってこれなかったかも!ありがとう(笑)」
サキ: 「(笑)いやー、でもわかる。本当に一つ一つが名品揃いだったね。私は国宝の《無準師範像》が良かったなぁ。なんか、渋いイケオジって感じでさ。実在感すごかったなぁ。」
国宝《無準師範像》東福寺(購入したポストカード)
エミ: 「あー!わかる!肌の質感とか、生きてる人の目だったよね。」
普悦筆 国宝《阿弥陀三尊像》(購入したポストカード)
サキ: 「あと、普悦筆の国宝の《阿弥陀三尊像》もなんかすごかった。いろいろな意味で圧倒されたよ」
エミ: 「あれね!私も、最初『あれ、なんかガラスが汚れてない?』『いや、私の目が曇ってる?』って思って、自分の目をこすっちゃった(笑)」
サキ: 「わかるわ!確かに。あれって、わざと最初からふんわりとした幻想的な感じで描いてたんだってね。霞(かすみ)の中からフワッと現れたみたいで。ありがたみが増し増しというか。」
エミ: 「うん。本当に一つ一つの作品のパワーがすごくて、もうお腹いっぱい。…でもやっぱり!!さあ、本命の!牧谿(もっけい)の《観音猿鶴図》よね。感想戦しよう!!」
サキ: 「待ってました(笑)」
牧谿(もっけい)という奇跡
牧谿筆の国宝の《観音猿鶴図》
サキ: 「やっぱり、あの観音猿鶴図は…反則だよ。猿、観音様、鶴だもんね。」
エミ: 「そうなの!私、あの3枚を見て、正直『あっ、私、今、悟った』って確信したわ」
サキ: 「わかる!私は悟るっていうか、『ととのいました』かな(笑)」
エミ: 「確かに、そっちかも。あの白衣観音の目のうつろな視線、ととのいました!しかないね。800年前の絵なのに、現代アートみたいだったね」
サキ: 「あの猿の親子の構図もすごかったね。“空白”が多いんだけど?『描かないこと』で、枝の揺れまでが可視化されていた感じ。」
エミ: 「ちょっと言葉にならないよね。猿の絵を見て、涙が流れることがあるなんて思ってもいなかったわ。」
サキ: 「子ザルをお母さん猿が片腕で抱きかかえて、子ザルはちっちゃい手でお母さんの顔あたりをキュッと掴んでる、その一瞬!お母さん猿がちょっと体重を移動させて、片足を乗せた枝がささささって揺れるんだよね。あれをたった一本の線で完璧に捉えるとか、神業じゃない?」
サキ: 「ね!しかもさ、あの子猿とバッチリ目が合わなかった?私、思わず『はっ』て声出ちゃった。」
サキ: 「そのとき、『ととのった』んだね!左の鶴もすごかった、なんだろあの絵。もちろん動いているはずないのに、S字カーブの首が動いて、『こーん』って竹林に響く鳴き声が、本当に耳に聞こえてきた。静寂のミュージアムの中で確かに鶴の鳴き声が聞こえたよ。」
エミ: 「そうそう。それもサキちゃんだけじゃなく、私はもちろん、絵を見ていたみんながその音を聞こえている感がすごかったよね」
サキ: 「…うん。なんか感動的だったよね、知らない人たちと感動を分かち合う瞬間…。」
牧谿を吸収した等伯と宗達
エミ: 「あ!次の部屋もすごかったね!」
サキ: 「そう!手前に牧谿の《観音猿鶴図》があって、その隣か、さらに隣だったかな。それにしても京博って変わった形の建物だね。それはともかく、長谷川等伯の重文《枯木猿猴図》。」
エミ: 「SNSで『同時に見られるの贅沢!』って書いてた人いたけど、本当に贅沢すぎた。牧谿の猿と等伯の猿は、キャラとしての猿は同じだけど、400年っていう時間の厚みを感じる伝統と進化を目の当たりにできて、ザ歴史を味わえる構成だったね。」
サキ: 「一番最後の部屋には俵屋宗達の国宝《蓮池水禽図》もあったしね。あれ、後期ずっとじゃなくて、11月3日までだったんだって。ギリギリ見られて、本当にラッキーだったね、私たち。」
俵屋宗達の国宝《蓮池水禽図》(購入したコロタイプ印刷ポストカード)
エミ: 「牧谿が日本美術に与えた影響の大きさを、全身で浴びた感じだったなぁ。全体で2周したし、李唐と牧谿の階は3周しちゃったね。。。」
サキ:「サウナも、ととのうには3セット必要だから、しょうがないよ(笑)」
エミ: 「牧谿って、当時の中国ではそれほど注目されていなかったのけど、それを室町幕府の足利義満たちが熱狂的に集めて、日本で神格化されたっていう歴史も面白いよね。」
サキ: 「だね。…ん?エミちゃん?また思い出してる?」
エミ: 「……(ティーカップを見つめて、また目が潤んでくる)」
サキ: 「あ、エミちゃん、またととのっている(笑)」
エミ: 「(目をこすりながら)ごめん、また没入しちゃったみたい。正倉院展とは別次元のすばらしさだったね…」
サキ: 「うん。」
エミ: 「うん…。本当に、これは前期だけだったら『後悔する』後期展示の充実ぶりだった。」
サキ: 「さて、エミちゃんも落ち着いたところで(笑)。私も、図録しっかり買ったしね!鈍器すぎる分厚さ。帰っていつでも猿の毛並み一本一本までじっくり見れるわ。」
エミ: 「うん!ポストカードは大判だけど3幅が一つになっているから、細かいところまでは見られないからね!あ、そういえば私たち、トラりんに会えなかったね(笑)」
サキ: 「あ、本当だ。遭遇率高めって聞いてたのに。まあ、李唐と牧谿に会えたからいっか!」
エミ: 「だね!11月16日(日)まで。関西の人は絶対行ったほうがいいし、遠くからでも行く価値はあるよね。秋の京都はどこも混んでいるから、かえって京博のほうがゆっくり静かに京都を楽しめるかも!」
サキ: 「思い切って初めての京博へ行ってよかった、ありがとうエミちゃん、誘ってくれて」
