人気ミステリー作家・法月綸太郎の短編集『赤い部屋異聞』(2019年12月刊、カドカワ)を読んだ。江戸川乱歩の「赤い部屋」をはじめ、内外の小説9編を「原作」に、新作として書き換えたオマージュ作品集となる。
結論から言えば、第七話「最後の一撃」の意味がよく分からなかった以外、ぜんぶ非常に面白かった。それも9編の元となる作品を1編も読んでいないにもかかわらず(笑)。
連作短編集のように一つ一つの話が実はリンクして、長編となる、ということは全くなし!それぞれの話の終わりに、筆者のミニ解説が書かれていて、これが親切であったので、読後の満足感が強かった。この手のオマージュ作品は、えてして、読者も全部元ネタを読んでいて、しっかり覚えている、という前提になりがち。しかし、古今東西の小説を幅広く読んでいる暇人など、それこそ作家くらいしかいないはずなので、こうした後講釈はたいへんによかった。逆に、本格ミステリーファンなどは「興ざめ」と思うかもしれない。
表題作の「赤い部屋」も読んだことがなかった。なにしろ、ようやく最近になって、江戸川乱歩の「D坂の殺人事件」や「大暗室」などを読んだばかりなのである。というわけで、『赤い部屋異聞』の表題作「赤い部屋異聞」は、(数作読んだだけだが)乱歩っぽさが香る文体ながら、もちろん現代作品なので、読みやすく、そしてミステリーとしてのオチもたいそう面白かった。
で、その後、本家「赤い部屋」も読んでみようと、青空文庫を見たら、あった。説明によると、1925(大正14)年4月に「新青年」(博文館)という雑誌に発表されたとのこと。大正時代か。。。
戦前であるのに、めちゃくちゃ文章が読みやすいことに驚く。乱歩、天才か。
ストーリーとしては、「~異聞」を読んでいるので、異聞のほうが面白い。てか、「D坂の殺人事件」にしても、現代からすると、トリック的なものはずいぶん物足りない。それでも、すらすら読ませることについては、乱歩は本当にすごいと思う。日本文学の高校の教科書(副読本)には、乱歩が載っていないのを見て、驚いたのだが、「読みやすい」=「軽い」と見なされたのだろうか。
「赤い部屋」を読んで、「赤い部屋異聞」を読めば、(その逆もOK)、オマージュって面白いと思うことをうけあいである。異聞の作者の法月氏はもちろん、青空文庫のボランティアのみなさんに大感謝である。