21世紀の芥川賞ぜんぶ読むの6作品目は、
2002年9月(2002年上期)の127回芥川賞となった吉田修一さん「パーク・ライフ」。
芥川賞以前には、「パレード」でエンタメ小説殿堂的な山本周五郎賞を受賞しており、エンタメと純文学の両方を行き来する作家として知られています。2016年からは芥川賞の選考委員にもなっています。
日比谷公園が舞台
物語の舞台は、東京の中心にある日比谷公園。主人公は大学を卒業して就職して数年の男。
日比谷公園で会うヒロイン的な女は年上で30歳前後。公園で休息する時間にかわされるおしゃれな会話が特徴で、ストーリーはほとんどなし。恋愛物語かもしれませんが、濃い絡みはなし。(ある女性選考委員は、主人公の性欲のなさを高く評価していました。そういった面では、フェミニスト小説かもしれません)。
スタバでドヤ顔しながらラテを飲んでいる都会の性欲の感じさせない男女の物語、といった感じです。
そんな話なので、盛り上がるところも、盛り下がるところもないのですが、なぜか、読んでいて面白い。
というのは、なにか? と考えると、吉田さんの空間描写能力が素晴らしいのです。心象風景ではなく、たんなる公園の描写が。ストーリーはないけど、なんとなく心に響くフレーズが、具体的な映像のように頭に入ってくるのです。一生懸命に風船を飛ばそうとしている老人が見ようとしたものが、実はのちにドローンとなって実現していたり。
物語というよりも、歌詞、みたいです。
あと、スタバが2002年から20年近くたった今も、この小説の登場人物たちのように、「ほかの一般人とは違って良いものがわかっているワタシだけの場所」という感覚が未だに続いている、ということに驚かされます。無印良品も同じような感じかな。(実際130回芥川賞の「蹴りたい背中」では同じようにちょっとおしゃれな場所として無印良品が出てきます)
まとめると
テーマ都会の男女
歴史テーマなし
地域東京
喫茶店で文庫になったこの本を時間つぶしで読む、というのは今でも大いにありと感じて
評価は高めの星3つ