新番組「世界サブカルチャー史 欲望の系譜」がNHK BSプレミアムで5月7日から始まりました。全何回かはわかりませんが、1回目は「アメリカ理想の50s」でした。アメリカだけで10年単位で7回あるようです。番組HP。
サブカルチャーはアメリカで戦後に生まれた
サブカルチャーというと、日本のアニメを思い浮かべますが、もとを辿ると、アメリカの戦後に生まれたものでした。
第二次世界大戦の勝利はアメリカに大きな自信を与え、白人男性のカウボーイが「男は黙って拳」で力を示す、といった映画俳優ジョン・ウェインが理想としてメインストリームの映画で表現されます。
一方で、戦地から戻りサラリーマンでオフィスワーカーとなった男性たちは、マッチョであることが現実では通用しなくなることに気づいていきます。
さらに冷戦が始まり、ハリウッドでは赤狩りが行われ、そこで産まれたのが、監視の厳しいハリウッドでの撮影でなく、オールイタリアロケで行われた「ローマの休日」でした。
1950年代「偉大なアメリカ」は絶頂とともに、同時に揺らいでいきます。
そして、アメリカに不安が広がる中、1952年に「空飛ぶ円盤」の目撃情報が相次ぐようになります。
さらにソ連との核兵器開発競争は、人々をさらなる不安に陥れます。
そこで産まれた映画が、ソ連や中国てはなく、宇宙人が攻めてくるSF映画です。1953年の「宇宙戦争」は、2005年にスピルバーグ監督、トム・クルーズ主演でリメイクされています。
アメリカ人の心の不安が募る一方で、1950年代のアメリカ経済は成長を続けます。
所得が平準化し、分厚い中間層が生まれました。夢の消費生活アメリカン・ドリームです。
戦時中、軍需工場で務めていた茶髪の少女が、金髪に染めてセックスシンポルとなりました。マリリン・モンローです。
一方で、家庭にはテレビが普及してホームコメディが爆発的な人気になります。そこには理想的なパパとママの家庭像が描かれます。
そしてマクドナルドも誕生して、幸せの形の均質化が進みます。
ヒッチコックの「裏窓」1954年はその現象を皮肉的に描きだしました。
一方で、黒人音楽からインスピレーションをえたプレスリーのロックンロールが音楽シーンを席巻します。その背景には、戦後の復員軍人と専業主婦に戻ったカップルからうまれたベビーブーマーが、思春期になり、ティーンエイジャーという分厚い若者層が誕生したことがありました。
50年代後半になり、個人主義や自発的創作(自発的といいながらドラッグを使ったりもする)を重視する「ビート」が生まれます。保守的な空気を変える若者たちの文化が走り出す。
若者文化サブカルチャーの誕生です。
ただ、それは、まったく新しい潮流でなく、むしろ西部劇の別バージョンだと番組は評価します。アメリカの価値観に反抗するのが、アメリカ伝統の西部劇というねじれたようにも見える構造は、ビートを主導したのが、コロンビア大学などエリート大学の出身の文学者だからという点が、興味深かったです。
ロックンロールなどのサブカルチャーは、日本では石原慎太郎の「太陽の季節」など、太陽族も生まれました。さらにはソ連にも。アメリカ文化は、ロックやビートにより、アメリカのローカルカルチャーではなく、民族、性別、イデオロギーを越えた「世界の文化」になっていきます。
内容は良いが放送日程が未定なのが・・・
見た感想と評価
ロックンロールが黒人音楽の影響から生まれたことは知っていましたが、「ビート」がエリート大学発の文芸活動だとは知りませんでした。「ソフトパワー」といわれますが、当時のアメリカの若者文化(サブカルチャー)がアメリカ政府公認のものでなかったがために、世界に広まったという点は重要だと思います。いまは、政府や国がお墨付きや文化的覇権を狙って「ソフトパワー」の輸出を、どの国もしています。が、そう思い通りに行かないことは、日本のアニメ輸出や中国の孔子学院などをみても、理解できます。アメリカの場合は、現在でもネットフリックスが世界に浸透していますが、最近はポリコレ的なイデオロギーの強さから、当のアメリカで嫌われだしているという報道も見かけます。
そうした点でも、この番組の趣旨と内容はとてもよかったと思います。1回あたり90分はちょっと長いなと思いますが、映画のシーンもふんだんに盛り込まれています。次回(5月17日)も見るでしょう。
ただ、その次の3回目が6月18日、4回目が6月25日と、放送が不定期なので、評価は星を一つ減らして3つにしました。NHKらしく、実際に見る視聴者のことを考えずに、「映像の20世紀のように、すばらしい内容なんだから、不定期でも、視聴者が勝手にチェックして見るべき」という傲慢さを感じさせます。急いで放送する内容でもないので、ちゃんと制作を終えてから、きちんと毎週放送で一気に放送してほしいものです。とくに、ネットフリックスの一気見が定着してからは、毎週どころか、2本だけ流して、あとは1か月先に2回流して、その先はいつ放送するか不明とか、視聴者の事情を無視したNHKの態度は、ちょっと信じられません。映像の権利関係からでしょうか、NHK+の見逃し配信もありません。