「美濃六人衆」→「四人衆」→「三人衆」
【日曜日の夜 エミの自宅で大河ドラマ「豊臣兄弟!」をサキと鑑賞し終えたところ】
(エミがソファで論文のコピーを広げながら、アイスティーを飲んでいる。サキはその隣でレモンサワー片手に座る)
サキ:「ねぇエミちゃん、なんか分厚い論文持ってきてるけど。さっきの豊臣兄弟と関係がありそう」
エミ:「ふふ、今日はね、戦国ファンなら誰でも知ってる『西美濃三人衆』の話なんだけど——」
サキ:「あー、信長に寝返ったことで有名な人たちだよね。さっきも大河ドラマで出てたね、稲葉一鉄と氏家卜全、あと誰だっけ?」
エミ:「安藤守就」
サキ:「そうそう、安藤なんちゃらだったかも」
エミ:「でもね、実はこの三人、最初から『三人衆』だったわけじゃないの」
サキ:「え? どういうこと?」
エミ:「今回は2014年に発表された石川美咲さんの論文「戦国期美濃国における後斎藤氏権力の展開」(『年報中世史研究』)で明かされた衝撃の数字を教えてあげる」
サキ:「数字!大好き」
エミ:「実は西美濃三人衆は、もともとは『斎藤六人衆』だったの。つまり6人体制の最高意思決定機関があったのよ」
サキ:「ろ、六人!? 倍じゃん!」
エミ:「カリスマ斎藤道三を息子の斎藤義龍が倒して美濃のトップとなった時代に出来た新しい合議制の政治形態ね。ちなみに今ドラマでやっているのは義龍の息子・龍興(道三の孫)の代」

そもそも「斎藤六人衆」って誰?

エミ:「メンバーはこの六人よ。①安藤守就、②桑原直元——これは氏家卜全のことね——、③日根野弘就、④竹腰尚光、⑤日比野清実、⑥長井衛安」
サキ:「……あれ? 稲葉一鉄がいなくない?」
エミ:「そう! そこがポイントなの! あの有名な稲葉一鉄が、公式の六人衆には入ってないのよ」
サキ:「ええっ!? むしろ美濃三人衆のなかで一番有名なくらいなのに?」
エミ:「でしょ? 面白いのはここからよ。この六人衆はただの武将の寄せ集めじゃなくて、裁判や行政を担う『法による支配機関』だったの。たとえば西美濃の肥沃な根尾川(揖斐川支流)流域で村同士が水争いを起こしたとき、六人衆が連署状を出して裁定を下してたのよ。違反したら成敗するっていう強制力つきで」
サキ:「へぇ〜! 武将っていうより、今でいう裁判所と行政を兼ねてるみたいな感じ?」
エミ:「まさにそう! しかも面白いのが、この六人衆の権威づけの方法なの」
全員まとめて「改姓」!? 義龍のしたたかな戦略
サキ:「権威づけ?殿様の直属の部下だったんでしょ?」
エミ:「斎藤義龍って、室町幕府の名門『一色氏』に改姓したのは知ってる?」
サキ:「うん、お父さんの道三を殺してしまったから。よっぽど実家が嫌いだったか、父殺しで気まずかったんだろうなって」
エミ:「ここはかなり複雑で、前にも道三と義龍は本当の親子ではない説が昔からあるって話をしたよね」
サキ:「大桑城の回で!美濃守護の土岐頼芸の愛妾だった深芳野を道三がもらいうけて、生まれた子が義龍なんだけど、父は道三か土岐かって話ね」
エミ:「そう。この手の話の真偽は不明なんだけど、注目すべきは、土岐氏よりも格上の一色氏に改姓した義龍だけじゃなくて、六人衆も一斉に改姓してるってこと。安藤守就は一色氏家臣団の由緒ある『伊賀氏』に、桑原氏はこの時『氏家氏』に改姓して、これが私たちの知る『氏家卜全』になるのよ。竹腰氏は『成吉氏』に、日根野氏は『延永氏』に」

サキ:「全員!? それってすごくない?」
エミ:「すごいのよ。実はね、六人衆の多くは土岐氏の時代には権力の中枢にいなかった新興勢力だったの。つまり『なんであんたたちが国を動かしてるの?』って言われかねない立場だったわけ」
サキ:「あー、実力はあるけど、由緒がないってことか」
エミ:「そう! だから義龍は、名門一色氏の家臣団に伝わる格式ある姓を名乗らせることで、『この人たちは正統な宿老ですよ』っていう看板を与えたの」
サキ:「なるほど……でもそれって、六人衆にとっていい話だけじゃないよね?」
エミ:「鋭い! そうなの。由緒を与えると同時に、『あなたたちはあくまで一色氏の家臣ですよ』っていう主従関係の枠にはめて統制する意図もあったって指摘されてるわ」
サキ:「これって家康が松平から徳川に代えて、松平を部下にしちゃうっていう仕組みと同じじゃん」
エミ:「そうなの、サキちゃん鋭い。信長・秀吉・家康時代には、姓名を変えたり、果ては地名も変えたりっていうのを支配のための手段として常套化するんだけど、これって美濃発祥の可能性もあるのよ」
サキ:「へぇ、イノベーションの原点は美濃にあり?」
エミ:「詳しく仕組みを説明すると、義龍が考案したのは、室町幕府の四職家という名門である「一色氏」の権威を利用することだったの。でも、単に当主が名門を自称するだけではなく、部下たちにも「一色氏の由緒ある家臣団の姓」を名乗らせることが新しかった。「主君とそれを支える伝統的な家臣団」という既存の権威システムを、美濃の地に丸ごとパッケージとして移植(援用)したわけ」
サキ:「今でも見られる『のれん』買収型M&Aだね。SONYの『ブラビア』をはじめ日本の家電ブランドが続々と海外企業に事実上売られているのを見ているみたい…………」
稲葉一鉄はなぜ六人衆じゃないのか
サキ:「で、稲葉一鉄はどうしてたの? 六人衆に入ってないなら蚊帳の外?」
エミ:「それがね、完全に外ってわけでもないの。一鉄も義龍の改姓に同調して、丹後国人(一色氏の守護国)の姓である『新治氏』に改姓した形跡があるし、安藤・氏家らと連名で文書に署名してる事例もあるのよ」
サキ:「じゃあ実質的には六人衆と同じレベルってこと?」
エミ:「そうも見えるわね。ただ、公式な『六人衆』という枠組みには入ってない。なぜかは——実は最新の研究でもまだわかってないの」
サキ:「えっ、わかってないんだ!」
エミ:「石川美咲さんの論文でも『稲葉氏が後斎藤氏の権力中枢にどの程度関与していたかは不明』って明記されてて、今後の課題とされてるのよ。かなり調べた上で『不明』と言うからには、武力などの実力は持っていても、政権中枢への関与は低かったのではって私は思うよ」
サキ:「歴史って、わからないことがまだいっぱいあるんだね……。でもさ、そういう謎が残ってるのもロマンだよねぇ」
戦死で「四人」に——そして三人衆が生まれる
エミ:「さて、ここからがドラマチックよ。永禄4年(1561年)、義龍が急死するの」
サキ:「あっ……桶狭間の戦い(1560年)の翌年だね」
エミ:「跡を継いだのは幼い龍興。当然、織田信長が攻めてくるわよね。そして今の木曽川と長良川の下流の『森部の戦い』で——六人衆のうち日比野清実と長井衛安の二人が討ち死にしてしまうの」
サキ:「六人が……四人に」
エミ:「そう。体制がガタガタになっていく中で、もともと西美濃に強大な軍事力を持っていた稲葉一鉄の存在感がどんどん大きくなっていったと考えられるわ」
サキ:「六人衆の外にいた人が、結果的にキーパーソンになるって……なんか皮肉だね」
エミ:「六人衆が四人衆になる。どうやら龍興は四人衆を補充しなかったみたいね。だから五人衆にはならないけど、この頃、実力的には美濃には5人の強い武将がいたんだろうね」
サキ:「そしてついに………」
エミ:「ドラマでは若造のくせに生意気な龍興の横暴に見切りをつけた安藤守就と氏家直元——旧六人衆の生き残り——に稲葉一鉄を加えた三人が、まとめて信長に寝返るの」
サキ:「それが『西美濃三人衆』の誕生……!」
エミ:「そうよ。つまり三人衆っていうのは、六人衆が戦乱で壊れていった先に生まれた、いわば『結果としての三人』だったの」
それぞれの結末
サキ:「その後はどうなったの?」
エミ:「三人衆は信長の美濃平定に貢献したけど、結末はバラバラよ。安藤守就は武田への内通を疑われて信長に追放されるの。本能寺の変のあと旧領を取り戻そうと挙兵するんだけど……」
サキ:「するんだけど?」
エミ:「なんと討伐したのが、かつての盟友・稲葉一鉄だったのよ」
サキ:「うわぁ……それはキツい……」
エミ:「一方で、信長に寝返らなかった旧六人衆の日根野弘就は、龍興に最後まで従って美濃を追われた後、長島一向一揆で信長に徹底抗戦、近江の浅井長政のもとにも身を寄せるわ。でもその後なんと信長、さらに秀吉にも仕えて一万六千石の大名にまでのし上がるのよ」
サキ:「寝返った側も寝返らなかった側も、それぞれドラマがあるんだね……」
エミ:「そしてね、石川さんの論文を読んで頭に浮かんだのは、六人衆が築いた強固な地域統制力と軍事力——それを丸ごと取り込めたことが、信長を天下人に押し上げた最大の要因だったってこと」
サキ:「六人衆のシステムがなかったら、信長の天下布武も始まらなかったかもしれないんだ……」
エミ:「『美濃を制する者が天下を制す』ってよく言われるけど、楽市楽座に加えて、部下の姓名を変えちゃうイノベーションとか、美濃を取り込んだことで、信長が一気に飛躍するのは間違いないわね」
サキ:「うん……三人衆って呼び方だけじゃ、全然わかんないことだらけだったんだね」
参考文献
石川美咲「戦国期美濃国における後斎藤氏権力の展開」『年報中世史研究』39号、2014年
石川美咲「戦国期土岐・後斎藤氏の美濃支配ー用水相論を事例に」『ヒストリア』大阪歴史学会、269号、2018年8月
横山住雄『斎藤道三と義龍・龍興』戎光祥出版 2015年
おまけ:プレイリスト会議
サキ:「さぁて、恒例のプレイリストいきますか!今回のテーマは『知られざる6人衆』だね」
エミ:「いいわね。じゃあ私はAimerの『残響散歌』にするわ」
サキ:「お、なんで?」
エミ:「表舞台には出なくても、確かにそこにいた人たちの『残響』が、歴史を動かしていくっていうイメージ。六人衆が残した統治の仕組みが信長の時代まで響いていった感じがぴったりだなって」
サキ:「あ〜、わかるわぁ! じゃあ私は米津玄師『ピースサイン』!」
エミ:「『僕のヒーローアカデミア』のテーマだ」
サキ:「六人がそれぞれの個性と役割を持って、一つのチームとして国を動かしてたってところが、ヒロアカっぽくて。あと改姓で新しい名前を背負って走り出す感じも………」
エミ:「まさにヒーローネーム!」
サキ:「6人衆に『ワン・フォー・オール』がいなかったことが、斎藤氏の滅亡をもたらすんだよね。ヒーローって難しい」
エミ:「最後にもう一曲。私はOfficial髭男dism『Cry Baby』を推したいわ」
サキ:「東京卍リベンジャーズ来た!」
エミ:「決断は間違って、何度でも立ち上がる男たち」
サキ:「た、たしかに……! 戦国時代って命がけだけど、リベンジのチャンスはあったんだもんね」
「美濃6人衆」プレイリスト


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