「古美術逍遙~東洋へのまなざし」(泉屋博古館東京)感想

泉屋博古館東京の「古美術逍遙 東洋へのまなざし」展を見てきました。その感想です。
今年春、リニューアルオープンした泉屋博古館東京は、3つ目のオープン記念展です。第1弾は「日本画トライアングル 画家たちの大阪・京都・東京」、第2弾は「光陰礼讃 ―モネからはじまる住友洋画コレクション」でした。いずれも外れ無しでした。新しくなった展示環境がすばらしく、併設のカフェもめっちゃサイフォン式コーヒーとかおいしいし、ステキなんです。

大財閥住友家のコレクションを大放出するのですから、それは当たり前かもしれませんが、第1弾、第2弾が予想以上によかったので、第3弾はさすがに弾切れになるかなと思っていました。しかし、第3弾の「古美術逍遙」で、ようやく泉屋博古館所蔵の国宝2点が展示されることになりました。

それを知ったときに、正直「あぁ、弾切れで最後に国宝を出してくるのね、はいはい」くらいの感じでなめていました。「古美術逍遙」ってタイトルの意味も分からないし。

ところが、この「古美術逍遙」、すごくすごくよかったのです。目からの情報が脳にバシバシ吸収される仕掛け(配慮)が多くて満足度が高いのです。

国宝「線刻仏諸尊鏡像」(平安時代 12世紀)と国宝「秋野牧牛図」(中国・南宋時代 13世紀)を見られたのもシンプルによかったですが、国宝を見られたからよかったではなく、展示全体がとてもよかったのです。

展示の解説がとにかく細かくGOOD。細かいのだけど、専門的に深く長く説明しているわけではなく、非常に初心者にも優しく、時事ネタも突っ込んでウィットに富んだ文章なのです。中国書画を描いた人物なんぞ、ほとんど初耳の人ばかりなのですが、各作家の説明と各作品の説明がそれぞれ2枚のプレートがあり、読んでから絵を見ると、なるほど、そのヒントをもとに、見ている人がいろいろ”発見”することができるようになっていました。これは、練りに練られた文章か、達人の文章ですね。

ただ、ヒントがおおざっぱすぎて、難しすぎるのが1点ありました。「二条城行幸図屏風」(江戸時代 17世紀)です。大変に大きな屏風絵のなかに、細かく人が描かれていて、それはとても魅力的な絵なのですが、解説で「この中に伊達政宗がいます」とノーヒントで書かれていて、で、探すじゃないですか?この巨大な壁画を。でも見つからない。この屏風は複製画があって、明るいロビーに展示されているのですが、ここでももう1回探すけど、見つからない。政宗といったら隻眼ですよね。そういう人を探したのですけど、いない。

そしたら、10月19日という会期終了(23日まで)間際になって、「実は隻眼の人探しても見つかりませんよ」とツイート。ほんと、戸惑うわ。

まぁ、それはともかく、第一展示室「中国絵画ー気は熟した」から。
最初の徐渭(じょい)。いきなり人物紹介で「狂った」。
続いて、八大山人(はちだいさんじん)も、人物紹介でやっぱり「狂った」と。
うーん、しびれる。
八大山人の重要文化財「安晩帖」は、ゆる~い鳥と、ゆる~い魚が前期と後期。ものすごく惹かれます。このゆるさ。なににひかれるかというと、鳥獣戯画みたいな感じですかね。
このゆるさに魅力を感じるのは、解説によると、どうやら私たちが近代人だからのようです。住友寛一(1896-1956)という人が、この八大山人を改めて見いだしたそうです。近代的な「個性」を評価する姿勢でこそ、この絵の楽しさや魅力がわかるというのは、なんとなく理解できます。というか、めっちゃ魅了されました。

あとは、後期展示の仁清の「白鶴香合」(江戸時代 17世紀)もよかったです。石川県立博物館の国宝「色絵雉香炉」とかなり通じるものがあって、サイズはもちろんだいぶ小さいのですが、仁清という感じが伝わって、とてもよかったです。
それと、後期展示の「黄天目茶碗 銘 燕」(元~明時代 14~15世紀)(ツバメは違う漢字ですが、とりあえず燕で。)もすごく綺麗で引き込まれました。曜変天目ほどのきらびやかさは無いけど、別の観点からすると、こっちのほうが綺麗と見ることもあるのではないかなと。内側だけでなく、外側の釉薬のかかりかたが見事なのです。今は、こうした茶碗を手にすることはなく、ただ眺めるだけですが、手にしたときは、この黄天目茶碗のトータルの美ポイントはかなりのものだったかもしれませんね。

新しい泉屋博古館は施設的にも良い、展覧会テーマはマニアックだけど、展示に工夫されていて分かりやすいし、初心者でもそのテーマの深みに入れる体験ができます。しかも、1000円と安い上に、ぐるっとパスの対象です。金曜は夜8時まで開いているし。あえて改善点をあげるとしたら、ミュージアムショップのポストカードで、「これが展示されています」と、近所の大倉集古館のように明示してほしい、くらいですかね。

次回展は、ようやくリニューアルオープン記念展ではなく、特別展「板谷波山の陶芸」です。板谷波山は、「キツ(全くゆるくない)フワ」な、陶芸なのに、ふんわりとソフトフォーカスかかったような独特のオーラを放つ陶芸作家です。ときどき、美術展で、ぽんと1点置かれて、「うわ、これ凄い!波山?!」ってなる作品です。この間、出光美術館で「板谷波山」展をやっていて、見に行こうと思っているうちに、いつのまにか終わっていたので、今回は、ハリオカフェでランチのホットサンドを食べがてら、行かねばと決心しています。

泉屋博古館東京

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