尾形光琳「燕子花図屏風」の予習に知っておきたい伊勢物語 根津美術館「伊勢物語展―美術が映す王朝の恋とうた―」


【日曜日の午後 14:00 東京・南青山 根津美術館 池へと降りる庭園の小道】

サキ: うわぁ……! 見てエミちゃん、お庭がすっかり紅葉してる。真っ赤できれいだね! 表参道の交差点から歩ける距離なのに、こんなに静かな別世界があるなんて驚きだよね。

エミ: ふふ、それが根津美術館の良さよ。 今回は私の大好きな尾形光琳の国宝「燕子花図屏風」は展示されていないけれど……それでも、来る価値は十分にあったわ。 毎年5月にあの屏風に会いに来ているけど、今回の「伊勢物語―美術が映す王朝の恋とうた―」展は、あの屏風の背景にある物語世界を、もっと深く知るための最高の参考書ね。来年のゴールデンウィークに燕子花図屏風を見る予習になったわ。

サキ: エミちゃん、カキツバタがなくても満足そう! でも私も楽しかったよ。『伊勢物語』って、書名とか在原業平の名前は聞いたことあるけど、中身はよく知らなかったんだよね。なんかさ、平安時代から、恋に悩んだり、振られたり、駆け落ちしたり……人間って1000年経っても変わらないなあって安心しちゃった。

エミ: ええ、まさにその普遍性が源氏物語を含めて平安文学のすごさよね。今回は在原業平生誕1200年の展覧会だけど、平安時代の資料があるわけじゃなく、その数百年あとに江戸時代に一大「伊勢物語」ムーブメントが起きたことを、絵画や工芸品などの美術品で浮かび上がらせる趣向ね。

サキ: そうだったんだ!平安文学と見せかけて、実は江戸美術が本当のテーマだったってこと?

エミ: そう感じたわ。そしてそれって今回展示されていない尾形光琳の「燕子花図屏風」に通じる補助線になっているの。

サキ: 出た、エミちゃんの燕子花図推し!

エミ: 屏風だけでなく、印刷物から貝合の遊びの道具まで、あらゆる形で伊勢物語が愛されてきた歴史が分かったでしょう? 燕子花が出てくる伊勢物語はどんな話だったか覚えてる?

サキ: えーっと。八つ橋とか、東下りとかだったよね。確かに、お話の中では『燕子花』そのものがメインテーマってわけじゃなかったかも。

エミ: 今の私たちは『燕子花図屏風』を見れば、物語を知らなくてもそのデザイン性の高さだけで圧倒的な美を感じることができるわ。 それは、日本人に限らず万国共通の美の本能に突き刺さるほど、尾形光琳のデザイン力と構成力が優れていたことを意味するの。 でも、その背景にある『伊勢物語』を知れば、また別のレイヤーで燕子花図を楽しめるってことじゃない?

サキ: そういうことね! 私、尾形光琳の燕子花が脇役のように描いてある掛け軸、ほとんどチラ見でスルーしちゃったかも(笑)。 ねぇねぇ、もう一回会場に戻ろうよ。

エミ: まぁまぁ、根津美術館は何度も周回できるのも魅力だけど、時間はたっぷりあるわ。 まずは今しか見られないこの美しい紅葉の庭園を歩いて、それから庭園の中にある『NEZUCAFÉ(ネヅカフェ)』でおいしい紅茶とモンブランを食べて、脳と身体に糖分を補給しない? おごってあげるから。

サキ: わーい!エミちゃん大好き。その代わり、カフェでたっぷり燕子花図への思いを聞いてあげるからね。

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