日曜美術館 ユニークな肖像画が語る異色の人物たち

まずは京都の長福寺の国宝「花園天皇図」。

NHKの日曜美術館で5月29日に放送された「ユニークな肖像画が語る異色の人物たち」の感想です。

幼少から天皇になったものの、父が院政を敷いたために実権がなく、学問や文化にいそしんだ花園天皇。とくに絵画が好きでした。

宮内庁書陵部に残る直筆の日記『花園院宸記』には、「予幼年の時より絵を好む者なりよって万事をなげうち之を見る」とあります。

鎌倉時代は、ささっと筆で描く似絵(似顔絵)が盛んな時代。鳥獣戯画図もある意味でその一種。

この絵も、本人の特徴をとらえています。なんと言っても、この絵に天皇自らが賛を書いていて「予の陋質(ろうしつ、悪いところ)法印豪信図する所也」とあります。白眼がちで垂れ目、鼻は鍵鼻で口はちょっと突き出ている、自らの顔の特徴をよく捉えたこの絵に、美術を愛するものとして、ちょっと皮肉をきかした賛辞といえそうです。

番組での解説は高岸輝東京大学大学院教授でした。

続いて、家康のしかみ像(徳川美術館)

三方ヶ原の戦いで破れた家康が、臥薪嘗胆のために、狩野探幽に、敗北の直後に描かせたとされる有名な絵。と

ところが、このエピソードは明治以降に作られた空想のお話だった。

調べたところ、江戸時代まで、家康像は長篠の戦いの絵とされていた。つまり戦勝の武神としての家康を描いたものだった。

明治時代に、徳川美術館を創った尾張徳川家の当主の徳川義親が地元新聞の座談会で、この絵を徳川家に伝わる秘宝として画像とともに紹介し、その中で「家康が義直(初代尾張徳川家)のために、三方ヶ原の戦いの敗戦の戒めとするために探幽に描かせたものです」と話してしまい、それがあまりにもキャッチーな逸話のため、色々おかしいとは思われながらも現在に至るということらしい。

徳川美術館に勤めていた原史彦名古屋城調査研究センター主事の解説。

続いては国宝「明恵上人樹上坐像図」

なぜ木の上で座禅しているのか?

明恵上人は、鳥獣戯画図を持っている高山寺を創建した人物。

明恵は、和歌山出身で、23歳の若さで白上峰で隠遁する。庵には明恵が母と呼んだ国宝「仏眼仏母像」を拝んでいた。

ある日、明恵はこの絵の前で右耳を切り落とす。ゴッホか?!

その時、自ら絵に下の言葉を書きました。

モロトモニ アハレトヲボセ ワ仏ヨ キミヨリホカニ シル人モナシ

その理由は、み仏に自らを捧げるため。目だとお経が読めない、鼻は鼻水でお経が汚れるなどから、耳にしたそうです。

過激なまでの信仰心。後鳥羽上皇に認められて36歳のとき、高山寺の土地をもらい、高山寺を開く。弟子が増えても明恵は裏山で座禅の日々だった。その弟子の一人がこの絵を描いた。

解説は高山寺の田村裕行執事長。

続いて重文の、谷文晁「木村けんか堂像」。大きく開いた笑い顔。

木村は大阪の造り酒屋の主。子供のころから、学問好きで、自ら絵も描く文人画家で、博物学に秀でた大コレクターだった。自宅でコレクションを博物館のように公開して、日本全国から延べ4万人も訪れた。その中に谷文晁もいた。

この絵は、谷文晁が密かにスケッチしていたもの。木村が亡くなったあとに、遺族から肖像画の依頼がきて、描いたのだとか。

口が開いているのは、まさに生前に楽しく文化談義を楽しんだその姿なのだ。

解説は橋爪節也大阪大学教授。

次は一休和尚像(重文)

とんちの名人ではなく、実像は破天荒な禅僧だった。刀を手にして町を歩き、一休はどこと問われたら、魚屋、酒屋、売春宿を探せと答えてくださいと、言ったなど。

さらに、77歳で盲目の女性の森女(しんにょ)と付き合いました。

この絵には「この一休の前で禅をとけるものはいるか?この数十年俺ほど禅を体現したものはいない」という趣旨の賛が書かれています。

解説は一休さんの漫画を描いたイラストレーターの伊野孝行さん。

最後は、原寸大の2メートル超(7尺3寸)の力士を描いた「大空武左衛門」

実際には、相撲をとらず、土俵入りだけ見せる看板力士だった。

巨人ゆえに見世物扱い。小さい時から性格はおとなしく、争いごとは嫌い。

描いたのは、渡辺崋山。渡辺は写真鏡(カメラの原点)を使ってスクリーンに投影された像を見て薄い紙にトレースして描いたとのこと。フェルメールと同じだ。

解説は松嶋雅人東京国立博物館調査研究課長。

それぞれ、面白かった。また時折、再放送されるだろう。来年の大河ドラマは家康で、このしかみ像がどのように使われるのかが興味深い。(今年の鎌倉殿のようにあっと言わせる伏線になったらイイなと思う)

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