【週末 名古屋・鶴舞公園】
鶴舞駅で待ち合わせていた二人
サキ:「エミちゃん〜!名古屋に遊びに来て大須じゃなくて鶴舞ってなに?」
エミ:「ごめんごめん。来てよかったって絶対思うから!でもここ、ただの公園じゃないのよ」
サキ:「鶴舞公園でしょ?名古屋の人はみんな知ってるよ。有名なお花見スポットじゃん」
エミ:「それだけじゃないのよ。実はね……この公園の裏に、国内最大級の円墳が隠れてるの」
サキ:「え、古墳? 公園の裏に??」
エミ:「きょうは今は無き海岸線を巡る旅よ!」
サキ:「やった!ブラタモリ的なの来た!」
「円墳」としては愛知最大・国内でもトップクラス
【鶴舞公園を突き抜けて東の外周を歩きながら】
エミ:「これが八幡山古墳。国の史跡に指定されてるのよ」
サキ:「うわぁ……なんか、森!? 古墳ってもっとこう、こんもりした丘みたいなイメージだったけど」
エミ:「直径約80メートルの円墳でね。愛知県内では最大、全国でも最大規模の円墳のひとつなの」
サキ:「前方後円墳じゃないんだ?」
エミ:「そう、前方後円墳じゃなくて”円墳”。鍵穴じゃなくて、まんまるい形ね。立入禁止だから中には入れないけど、周溝の大きさも含めると迫力があるでしょ?」
サキ:「たしかに……なんか押し出されそうな存在感があるよ。誰が埋まってるんだろ……」
エミ:「それがね、被葬者はまだわかってないの。古墳時代中期、5世紀ごろって言われてるくらい」
サキ:「5世紀! 1500年以上前か……」
古代の海「阿由知(あゆち)潟」が目の前に広がっていた

サキ:「なんでこんな場所に、こんな大きな古墳が作られたの?」
エミ:「実はここ、昔は台地の縁だったの。で、南のほうにはね——」
サキ:「南? 今は市街地じゃん」
エミ:「古代には「阿由知潟」っていう内海が広がってたのよ!」
サキ:「え、海!? 名古屋の真ん中に!?」
エミ:「今の名古屋市内にあたる地域、かなりのエリアが海だったの。そのアユチって地名、実は——」
サキ:「まさか……」
エミ:「そう! ”愛知”の地名の由来と言われてるのよ!!」
サキ:「ええっ!? 愛知県の名前がここから来てたの!?」
エミ:「阿由知潟が目の前に迫る台地の先端に立つ、海の見える巨大な円墳。そこに眠る有力者は、きっと海と陸の両方を支配してたんじゃないかしら」
サキ:「……震えるな、それ」
「鶴舞」はなぜ駅と公園で読み方が違う?
【鶴舞公園内のベンチにて。サキがレモンサワー風のドリンクを飲みながら】
サキ:「ていうかエミちゃん、ずっと気になってたんだけど。鶴舞公園って”つるま”で、鶴舞駅は”つるまい”じゃん。なんで読み方ちがうの?」
エミ:「あ、気づいた!それね、ちゃんと理由があって面白いのよ」
サキ:「理由!?」
エミ:「もともとここは「流間(つるま)」って呼ばれてたの。崖の下から湧き水が湧き出る場所、っていう意味」
サキ:「あ、”流れる間”で”ツルマ”か。なるほど〜」
エミ:「近代に市民公園を作るとき、縁起のいい漢字に変えようって「鶴舞」という当て字にしたの。それが後に「つるまい」とも読まれるようになって、駅名は「鶴舞(つるまい)」、公園は昔通りの「鶴舞(つるま)」で定着したってわけ」
サキ:「へぇ〜!ただの当て字問題じゃなくて、地名の歴史がそのまま残ってるんだ」
エミ:「そう。しかも「湧き水の出る土地」って意味が、地名にちゃんと刻まれてるのよ。古代の人々がここに集落を作ったのも、この湧き水があったからこそ」
「荒畑」という地名は災害の記憶?
【公園南側の道を歩きながら】
サキ:「そういえばさ、この辺の地名って荒畑でしょ。なんか物騒な名前だよね」
エミ:「鋭い!実はそこにもミステリーがあってね」
サキ:「ミステリー!?」
エミ:「八幡山古墳の南と西は崖になってるの。そして崖下の地名が荒畑——つまり「畑として使えない荒れた土地」っていう意味なのよ」
サキ:「なんで使えなかったの? 古墳が作られるくらい栄えてた場所なのに」
エミ:「実はここ、濃尾平野って御嶽山の噴火の軽石が飛んでくるくらいの範囲内なの。台地の崖はそういった土砂崩れや土石流が起きやすい地形でもあって」
サキ:「あ! 北海道の地震で軽石の地層が山崩れを起こしたやつだ。あれと似た感じ?」
2018年9月6日の北海道胆振東部地震(最大震度7)で過去に例を見ない数の崩壊性地すべりが発生した
エミ:「そう! さすが地理に詳しいサキちゃん、よく知ってるわね。台地の縁の崖が崩れると、下流に流れ込んで農地を潰しちゃう。それが積み重なって「荒れた畑」になったんじゃないかって」
サキ:「地名って、昔の災害の記録でもあるんだ……なんかちょっと怖いね」
エミ:「あとね、面白いのはここからよ。こんなに農業に不向きな土地なのに、ここがずっと栄え続けた理由があるの」
サキ:「え、なんで?」
エミ:「海と水運ね。阿由知潟の水運で海産物は豊富、農業よりも物流と工業に特化した地域だったんじゃないかって」
鎌倉時代に「工業地帯」として復活、やがて佐久間氏が台頭
サキ:「工業地帯!? 古代に?」
エミ:「古墳時代のあと、奈良時代ごろから東山丘陵で須恵器(すえき)——つまり陶器の生産が盛んになるの。その窯からの土砂が川に流れ込んで、南の谷が荒れていった、というのが荒畑の謎の答えかもしれないのよ」
サキ:「工業化の副作用で農地が潰れて、荒畑になった……って、現代と同じ構造だ!」
エミ:「そして鎌倉時代になると、今度は御器所(ごきそ)という地域が祭祀用の須恵器を作る工房地帯として復活するの」
サキ:「御器所って今の昭和区の地名だよね。なんか名前からしてそれっぽい」
エミ:「「器を作る所」でしょ!そのものズバリの地名よね(笑)。そしてその工業化で経済力をつけた武士が台頭してくる——」
サキ:「誰が出てくるの?」
エミ:「佐久間氏よ。後に織田信長の筆頭家臣になる佐久間信盛の一族ね」
サキ:「え!! ここから信長につながるの?」
エミ:「古墳時代の海辺の豪族から、陶器の工業地帯、そして戦国の佐久間氏へ。この土地、1000年以上かけてちゃんと歴史の表舞台に立ち続けてるのよ」
サキ:「……鶴舞公園、見くびってたわぁ。ただのお花見スポットじゃなかった」
まとめ
エミ:「今日のまとめね。八幡山古墳は直径約80メートル、愛知県最大・全国最大級の円墳。古代には目の前に阿由知潟(あゆちがた)が広がり、”愛知”の地名のルーツが目の前に迫ってたの」
サキ:「鶴舞公園の”つるま”は湧き水の地という意味で、駅と公園で読みが違う理由もちゃんとあったし」
エミ:「そして荒畑という地名は、崖崩れや工業化による土砂流入の記録かもしれない。地名って本当に面白いのよ」
サキ:「古墳→陶器工業→佐久間氏→信長って流れ、壮大すぎる……。また来よう、ここ。今度は一本松古墳も見たい!」
エミ:「名工大のキャンパス内にあるやつね! それはまた今度のお楽しみ♪」
プレイリスト会議
(ベンチでスマホを見ながら)
サキ:「じゃあ今日の選曲いこっか。私はヨルシカの『花に亡霊』かなぁ」
エミ:「あ、なんで?」
サキ:「阿由知潟って今はもう消えちゃった海じゃん。あの曲の”消えたものへの追憶”みたいなテーマが、海が消えた古墳の風景に重なるなって」
エミ:「……深いじゃないの。私はね、Aimerの『残響散歌』にしようかな」
サキ:「えっ、鬼滅の? なんで?」
エミ:「「残響」でしょ。1500年前の古墳の主が鳴らした太鼓の音が、今の名古屋の地名にまだ響いてるみたいで——荒畑も、鶴舞も、阿由知も、全部その人の”残響”な気がして」
サキ:「うわぁ……それズルいわ。刺さりすぎる」
訪問メモ
– 八幡山古墳:名古屋市昭和区八幡山(国指定史跡。立入禁止)
– 鶴舞公園:名古屋市昭和区鶴舞1丁目(JR中央線・地下鉄鶴舞線「鶴舞(つるまい)」駅すぐ)
– 一本松古墳:名古屋工業大学キャンパス内(北側)


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