自分の2019年に読んだ中では、ベスト10に入るだろう本が、深緑野分『ベルリンは晴れているか』(筑摩書房)。
第二次大戦末期から終戦直後のドイツ・ベルリンを舞台にした歴史小説です。2019年の本屋大賞第三位となった作品です。
めちゃめちゃはまって、書評どころか、背景の歴史を調べたり、イラストにしたり、しました。(上記記事参照)
その影響で、2019年刊行の第二次大戦末期ものの歴史小説を2冊、年末に一気によみました。
密室殺人だけど舞台が開放された村でして密室っぽくない
折輝真透「それ以上でも、それ以下でもない」(早川書房)と佐藤亜紀「黄金列車」(角川書房)です。
正直、2冊とも、「ベルリンは晴れているか」と比べると、、、でした。
2冊は、なんというか、お互いが補間しあっているのです。内容が似ているのではなく、物足りない面で。
すっきりを感じた謎解きパート
前者の「それ以上でも、それ以下でもない」は、「第九回アガサ・クリスティー賞」(こういう賞があるのを知りませんでした。しかも日本語の作品のみが対象!)の受賞作です。
南フランスの村が舞台なのですが、アガサ・クリスティー賞だけあって、なんとなく密室(村なのに)殺人事件のような雰囲気でストーリーが進み、最後の最後のオチは、「推理小説」といえるような種明かし感がよかったです。
ただ、そこに至るまでが、なんともスローペースで、登場人物にもそれほど感情移入できませんでした。
せっかく「閉鎖的な村」で「密室殺人」の舞台にしたのに、外から入ってくる人が多すぎます。あと出て行く人も。
それこそ、よくある推理ものの定番サイズの50頁くらいの中編にまとめっていたら、もっとよい作品になったのではと思いました。
伏線回収せずに読者を「はあ?」とため息をつかせる問題作
一方のヨーロッパもの小説の大家、佐藤亜紀さん「黄金列車」(文藝春秋)。
佐藤さんの作品は初めて読んだのですが、その描写力、人物の描き方の微細さ、読んでいて、どんどん背中を押されていく、まるで叙事詩のようです。
終戦間際に、武器もなく大量の財宝を運ぶ列車の運行。そこから伊坂幸太郎の「マリアビートル」ばりに、どかんどかんとバトルシーンが始まるのかと思ったら、小役人としかいいようのない「おっさんず」が口先一丁で兵隊たちを切り抜けていくのは、なかなか爽快でありました。
あと20頁くらいになり、この「おっさんずらぶ」たちがどんなフィナーレを見せるのかと、わくわくしたら、
「えっ?」「終点です」
「えっ?複線回収は?」「ありません」
「えっ?」「はい、本を閉じてください。終電です」
という感じでした。
途中までがおもしろかったので、まったくすっきりしない消化不良でした。
もっとも佐藤亜紀さんがただものではない表現家であることは、相当に理解したので、読み終えてすぐに、名著と名高い「ミノタウロス」(講談社)を買って一気に読みました。うーん、しびれた。すごい。子どもには勧められないけど、ピカレスクロマンとはこういうものっ!と、感じ入りました。ミノタウロスは最後にちゃんとお話を回収していたので、やっぱり「黄金列車」はいまいちだなと改めて思った次第です。
途中までの描写とテンポがよい「黄金列車」と、ラストシーンの複線回収がよい「それ以上でも~」、この2冊のよいところが合体したら、名作になったのだろうになと、思いました。
ブクログでは、「それ以上でも~」を星4。「黄金列車」を星3。「ミノタウロス」を星5にしました。
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