白隠さんのゆるい達磨と狩野派の金ピカの襖絵、どっちも”禅”でした——妙心寺展ルポ後編

幕間:エミ、妙心寺を語る

ここで後編に入る前に、ちょっとだけ妙心寺というお寺の話をさせてね。

妙心寺は京都・花園にある禅寺——なんだけど、むしろ塔頭たっちゅう寺院のひとつである龍安寺りょうあんじのほうが一般的には有名かもしれない。あの白砂の石庭で大人気のお寺ね。龍安寺って、実は妙心寺の塔頭なの。

妙心寺は臨済宗妙心寺派の大本山。できたのは建武の新政の頃——鎌倉時代が終わって南北朝時代に差しかかる、あのあたり。花園天皇(のちに法皇)が自分の隠居の離宮を「ここをお寺にしていいよ」と寄進したのが始まり。

禅宗は鎌倉時代以降、特に武家の間で大ブームになっていて、幕府公認の禅寺ランキング——五山ござん制度が整えられていったわ。ビッグファイブは出入りがあるんだけど、天皇家の南禅寺を別格として、天龍寺・相国寺・建仁寺・東福寺・万寿寺が京都五山に選ばれているの。

でも、妙心寺はこの”ビッグファイブ”に入らなかった。いや、入れてもらえなかったというほうが正しいかな。

理由はね、妙心寺の出自にある、と私は思う。花園天皇(持明院統)は、後醍醐天皇(大覚寺統)の前の天皇なんだけど、実は鎌倉時代に皇統は持明院統と大覚寺統の二つに分裂していたの。そこで鎌倉幕府は「10年ごとに天皇交代」という先送りの極みのような策をとった。

花園天皇(1297〜1348年、在位1308〜18年)は真面目な人だったみたい。在位10年で約束通り、大覚寺統の後醍醐天皇に譲位。でも、ご存じの通り、後醍醐天皇(1288〜1339年、在位1318〜39年)は10年交代の約束は守るつもりはなく、1321年に天皇親政を実行。まぁ、ほとんど宮廷革命よね。さらに”改革実現”のために鎌倉幕府が障害になっているとして討幕をしようとして一度は失敗して隠岐に島流しにされるけど、島を脱出して、賛同する新田義貞や足利尊氏らによって1333年、鎌倉幕府は滅亡。「元弘の乱」ね。

後醍醐天皇はいわゆる建武の新政を始めるんだけど、意外なことに持明院統をつぶすどころか、花園天皇の上皇領を安堵したの。「メイク朝廷グレートアゲイン」「公家ファースト」だったってわけ。
とはいえ、政治的には持明院統の目は消えたからかな、花園天皇は1335年に出家して、その後、後の妙心寺になる「洛西花園」の萩原殿に移って宗峯妙超と関山慧玄を師として禅宗信仰に没頭した。1337年に花園天皇の発願でこの離宮を禅寺として創設したというのが妙心寺の歴史の始まり。

まもなく足利尊氏と後醍醐天皇は対立して、南北朝時代になるけど、「公家ファースト」の象徴ともいえる妙心寺は、室町幕府にとっては、ある意味で目の上のたんこぶ。
それどころか、1339年に後醍醐天皇が亡くなると、敵のはずの室町幕府は後醍醐天皇を弔うために、京都の嵯峨に天竜寺を建立して、こっちをなんと「五山」に認定するの。

そんなこんなで妙心寺は幕府公認のエリート禅寺グループには入れられることはなかった。
じゃあ妙心寺はどうしたか。在野精神を発揮してめちゃくちゃ厳しい修行を売りにしていくの

このころのお寺って、延暦寺とかはもちろん、鎌倉時代に入ってきた新しめの禅宗でも、ぶっちゃけ、えらい人の息子がトップになることがほとんどだった。

ところが、公的な認定がないゆえに、妙心寺はとがっていったわけ。
もともと開山の関山慧玄(無相大師)から二代目の授翁宗弼(微妙大師)への継承も、血縁とか世襲じゃなくて、多くの弟子の中からたった一人だけ真に禅を極めた弟子だけに法を伝える方式。北斗の拳の「一子相伝」みたいなものね。前編で紹介した国宝の印可状こそが、まさにその継承の証なのよね。

そんなストイックな路線を突き進んでいたから、当然、室町幕府に「いきってる」と目をつけられた。1399年、南北朝を終わらせた室町幕府第三代将軍の足利義満は妙心寺を没収してしまう。この時、中絶——法の継承が途絶えてしまったの。

でも、約30年後の1432年に妙心寺は中興を果たす。なまぬるい世襲制じゃなくて本気で禅をやりたい人には、やっぱり妙心寺の厳格さが魅力的だったんでしょうね。

そして江戸時代。妙心寺は「日本に禅が伝わって以来、本物の禅を300年にわたって正しく継承してきたのはうちだけだ」と堂々と主張する。そこに登場するのが——この後編で出てくる禅宗きってのスーパースター「白隠慧鶴はくいんえかく」(1685〜1768年)。

妙心寺だけじゃなくて、臨済宗全体の中興の祖と称えられている人。白隠さんの影響力はすさまじくて、現在の臨済宗の法系はすべて白隠系に連なるの。つまり、今の臨済宗のオリジンが白隠さん。

面白いのはここからよ。
「厳しい修行こそ禅だ」と言い続けてきた妙心寺の系譜にいながら、白隠さんは一周回って「みんなの中に仏がいるんですよ」と説いた。そして、あのゆるゆるの禅画を山ほど描いて禅の世界を広めたの。もちろん「ちゃんと修行してからそこに至るんだよ」という前提はあるんだけど、入り口として「面白い」「魅力的」をバーンと打ち出した。

ここに禅の二面性がある、と私は思っていて。
ひとつは、白砂にシンプルな石庭、墨でサッと描いた禅画——スティーブ・ジョブズが愛した「禅のシンプルさ」。ゆるいけど、すごく深い世界。

もうひとつは、厳しい修行の果てに見えてくるキラキラのオープンワールド。金碧の障壁画に囲まれて「悟り」の世界へダイブイン。

最初に見た開山忌の金ピカの襖絵と、白隠さんのゆるゆる禅画。この対比と共存こそが、まさに禅の両面性であり真実なんじゃないかなって。この展覧会は、その両方を一度に見せてくれる。だからこそ「禅の継承」というタイトルなんだと思う。
——と、ちょっと一人語りが長くなっちゃった。サキちゃん、起きてる?

後編スタート!

【大阪市立美術館 ロビーのベンチ】

(前編の続き。展示の途中でベンチに座って一息ついている二人。エミが上の解説を喋り終えたところ)

サキ:「…………」

エミ:「サキちゃん? 寝てない?」

サキ:「寝てないよ。聞いてた。……ていうか、エミちゃんが一人でこれだけ喋り倒すのは久しぶりだね」

エミ:「あ、ごめん、つい……」

サキ:「いや、いいよ。むしろ面白かった。整理すると——」

エミ:「うん、うん。私、自分で話していて混乱し気味だから、サキちゃんまとめて」

サキ:「つまりこういうことかな? 妙心寺は室町幕府のエリート枠には入れなかったけど、”修行ガチ勢”路線でブランドを確立した。弾圧されて一回潰れたけど、ガチ勢には需要があるから復活した。で、江戸時代に白隠さんが”ガチの先にあるゆるさ”っていう新しいフェーズを開いて、それが禅宗のスタンダードになった」

エミ:「……完璧なんだけど」

サキ:「前編で見た展示の話とつなげるとさ、第1章の金ピカ屏風が”修行の果てのキラキラワールド”で、白隠さんの禅画が”シンプルの深さ”ってことでしょ。で、その両方があるのが妙心寺の禅」

エミ:「サキちゃん天才じゃない?」

サキ:「……別に。エミちゃんの説明がわかりやすかっただけ」

エミ:「サキたん♡」

サキ:「ちょっと……公共の場でその呼び方はやめて。立って、続き見に行くよ」

(サキがすっと立ち上がり、ごく自然にエミに手を差し出す)

白隠さんと仙厓さん——禅のゆるキャラ爆誕

サキ:「この達磨さん、味がありすぎる。いわゆる『ヘタウマ』?」

エミ:「白隠はくいんさんの禅画よ。江戸時代のお坊さんで、禅を広めるためにわかりやすい絵をたくさん描いたの。残ってる作品が1万点もあるんですって」

サキ:「1万!? お坊さんなのに画家より多いじゃん!」

エミ:「日本の画家の中でも比較にならないほどの量よ。しかも、ただ多いだけじゃなくて、見た人がパッと”あ、そういうことか”って腑に落ちるような力があるの」

サキ:「あ、こっち閻魔さま見て見て! 怖いはずなのに、なんか……大阪のおっちゃんみたい

エミ:「ここに来るまでに見た顔かもしれないわね」

サキ:「こっちにもゆるい絵があるよ」

エミ:「仙厓せんがい(僊厓)さんっていう、白隠さんより少し後の時代のお坊さん。同じく絵で禅を説いたんだけど、最近は「ゆるい」絵として人気が高いわ」

サキ:「Xで『白隠と仙厓のゆるキャラに和まされた』ってポストあったけど、ほんとにゆるキャラだぁ。禅ってもっといかつい感じかと思ってた」

エミ:「禅って”考える”より”感じる”ものなのかもね」

サキ:「理屈じゃなくて感覚。理系の私にはちょっと新鮮かも」

2階:キリシタンの南蛮寺の鐘

(階段を上がって2階の会場へ)

サキ:「あ、この鐘なんか不思議……真ん中にローマ字で”IHS”って書いてある!」

エミ:「よく気づいたわね! これはイエズス会の紋章なの。南蛮寺——つまりキリスト教の教会にあった鐘よ」

サキ:「え、なんでそれが禅寺に?」

エミ:「秀吉がバテレン追放令を出して、京都でキリスト教の教会が追われた時に、この鐘が仁和寺に移されて、そのまま幕末を越えて明治まで伝わったの。明治以降に仁和寺から妙心寺の塔頭に移されたみたい」

サキ:「すごい旅してきたんだ……。あ、横に”1577″って彫ってある!」

エミ:「製造年よ。形はヨーロッパの鐘のスタイルだけど、銅の成分分析で日本の素材で日本産だとわかってるわ」

サキ:「材料分析してるんだ。理系心くすぐられるなぁ」

(さらに進むと、精緻な工芸品のケースの前で二人が立ち止まる)

エミ:「朝鮮の高麗時代の螺鈿らでん漆器の合子ごうす。つまり用途としては化粧箱かな。高麗螺鈿は、貝殻を切り取って漆に嵌め込んで……ものすごい技術で、北宋から高麗に派遣された皇帝の使節が『高麗の螺鈿の技は極めて緻密で尊いものである』と高く評価したんだって」

サキ:「美では傑出していた北宋が認めるくらいだから、当時でも相当な技術だったんだね」

エミ:「それに、高麗時代の螺鈿漆器の完形って、いま、世界に20点くらいしか残ってないんだって」

サキ:「20点!? え、それが京都の禅寺に?」

エミ:「真上から覗くとね、信じられないくらい細かいのよ」

(単眼鏡を手渡す)

サキ:「うわぁ……ほんとだ、キラキラしてて綺麗……。これ朝鮮半島から来たんだよね。化粧箱としたらどんな女の人が使ったのかな」

エミ:「女の人の香りがする、それが妙心寺の特徴かも。たくさんの塔頭のいくつかに、水野忠清夫人が創建した福壽院、松平忠昌夫人である花姫の菩提所として建立された慧照院、真田信之の孫で千種有能夫人の長姫が建立した大法院、毛利秀就夫人喜佐姫が開基の龍華院、そしてこの展覧会で大注目の天球院は池田光政の伯母の天球院殿が開基よ」

サキ:「本当だ。女の人が建てた寺院がかなりの数あるね」

エミ:「極めつけは春日局が開基した麟祥院ね」

サキ:「春日局って大河ドラマにもなった女性だよね」

エミ:「そうなのよ。三代将軍徳川家光の乳母で、明智光秀の重臣の斎藤利三の娘でもあるわ」

サキ:「大河ドラマと言えば、最近は明智光秀が主役の大河ドラマ『麒麟がくる』もあったよね。麒麟が来る吉祥の院って、なんか意味ありそう。この塔頭の名前から誕生したドラマの名前だったりして」

エミ:「その想像力、面白い!」

天球院の障壁画——本物の迫力

(一度部屋を出て別の2階の会場に入ると、金色の世界が広がっている)

サキ:「…………」

エミ:「…………」

サキ:「……やばくない?」

エミ:「……やばいわ」

(天球院の重要文化財の障壁画が再現した位置で展示されている。三方を金碧画が囲む)

エミ:「妙心寺の塔頭天球院てんきゅういんの障壁画よ。通常非公開のものを、ここで実物を”再現”しながら展示してるの。江戸時代前期の京狩野派の狩野山楽と山雪による金碧画きんぺきがよ」

サキ:「あ、尻尾で遊ぶ子虎がいる! かわいい!」

エミ:「竹と虎の部屋ね。金色の背景にすっとまっすぐ立つ竹が右側、左側には虎がなんだか親子でじゃれあっている。三方を障壁画に囲まれて、……本当に贅沢な空間ね」

サキ:「でもさ、さっきの冒頭の龍虎図の虎と比べると、なんか雰囲気が違うよね?同じ狩野山楽だけど。さっきの龍虎は、龍と虎が睨みあう緊張感がバチバチだったけど、こっちはなんかユニークだったり柔らかさがある気がする」

エミ:「さすが! 最初の龍虎図は妙心寺の公式な一番格の高い法要で使われる威厳のある絵よね。こっちの天球院は、さっきも言ったけど、創設したのが女性なのよね。なんかそこらへんの背景も、山楽は描き分けていたのかしら?」

サキ:「あぁ、言われてみると……天球院の襖絵の花や鳥の色を見ると、どこか華やかな気分にさせる。それに見て見て、花びらがぷっくりしてる!」

エミ:「ほんとだ!これは胡粉ごふんで立体的に塗る盛上彩色もりあげさいしきね。写真と本物でぜんぜん違うわけよね」

サキ:「これは来ないとわかんないやつだ……智積院で見た長谷川久蔵の国宝『桜図』を思い出す」

エミ:「そうだね。あれも父親の長谷川等伯の『楓図』と並んで、次世代の若者久蔵が挑戦した『桜図』の胡粉の立体表現。まさに桃山から江戸って時代が変わった画期だったんだね」

大阪市美と妙心寺90年のご縁

(最後の展示エリアへ)

エミ:「実はね、この展覧会には”なんで大阪でやるの?”っていう声もあるらしいの。東京だと全国の有名なお寺の展覧会をよくやるから、京都のお寺を大阪で開くことってそんなに違和感なかったけど」

サキ:「あ、それ私もちょっと思ってた。妙心寺って京都でしょ?」

エミ:「大阪市立美術館と妙心寺って、90年のご縁があるんですって。大阪市立美術館が90年前に開館した時、コレクションが全然なくて、お寺や個人から宝物を預かって開館の展示をしたの。その時、妙心寺から27件も寺宝を出展してくれたんですって」

サキ:「へぇ〜! 90年前からの付き合い!」

エミ:「しかも今回、大阪にある妙心寺派のお寺さんを調査したら、白隠さんのお軸が出てきたり、初めてお寺の外で紹介されるものも複数できるんだって。90年のご縁の成果よ」

サキ:「なんかいいね、そういうの。ちゃんと調べて、ちゃんと見せてくれるって」

(最後の部屋、巨大な千手観音菩薩坐像の前で)

サキ:「わ……わわわ……大きい……! 座ってるのに1メートル半以上あるよ!?」

エミ:「すごい迫力。ほんとに動いて見える……! すごい…… ここも撮影OKだ」

サキ:「はぁ、お腹空いた!音声ガイドよかったね。私たちが共通して好きな声優の坂本真綾さんの声はほんとに自然にすっとささやいてくれてよかった」

エミ:「あとで、坂本真綾さんの『トライアングラー』をカラオケで歌おうね」

【美術館の中にあるレトロライクなカフェ】

(飲み物とケーキを頼む窓際のベンチに横に並んで座る二人。エミがサキの肩にもたれかかる)

エミ:「はぁ〜〜、すごかった……すっごい歩いた……。サキちゃん、今日一緒に歩いてくれてありがとう」

サキ:「………別にお礼言われるようなことしてないけど。でもまあ……正直、禅寺だから地味だと思ってたの、ごめんなさい妙心寺さん」

エミ:「ふふ。Xでも『地味かと思ったけど、すごかった』って人がいたわよ。みんな同じこと思うよね」

サキ:「だってさぁ、虎はギラギラ、閻魔さんは大阪のおっちゃんだし、キリシタン南蛮鐘はあるし、金ピカの襖絵に三方囲まれて、巨大千手観音でフィニッシュでしょ。禅ってなに!?やばい!ってなるじゃん!」

エミ:「そのギャップこそが禅の懐の深さなのかもしれないわ。創建時には教えはたった一人にしか受け継がない厳格さがあって、でも白隠さんはゆるい絵で禅を広めた。”一子相伝”の厳しさと、誰にでも開かれた優しさが同居してるのよ」

サキ:「……あ、なんか”禅”っぽいこと浮かんだ」

エミ:「え、ほんと?どんな感じ?」

サキ:「うん。ととのった。矛盾してるのに成り立ってるのが禅でしょ? 頭じゃなくて感じるやつ」

エミ:「……サキちゃんが鋭い切り口でサウナ用語を言うとこが、好き」

サキ:「サウナ用語使うところが?……まぁいいや。ていうか、エミちゃん、私の肩で寝ようとしてない? ……ここカフェなんだけど」

エミ:「私も、整った。もうちょっとダイブする……」

サキ:「……周りの人に見られてるんだけど。…………しょうがないなぁ。このあとプレイリスト作るからね!」

展覧会情報
「妙心寺 禅の継承」
2026/2/7~4/5
大阪市立美術館
写真撮影OKの作品あり(最初の龍虎図など、最後の千手観音など)
坂本真綾さんと中村隼人さんの音声ガイドもおすすめです。

おまけ:妙心寺展プレイリスト

【美術館のカフェ ケーキを食べ終えて】

サキ:「はい、恒例のプレイリストタイム! 今回は前後編あわせて12曲くらいいけるんじゃない?」

エミ:「欲張りね。でも今日はそれくらい詰め込みたい気分かも」

サキ:「じゃあ私から。1曲目はずっと真夜中でいいのに。の『秒針を噛む』」

エミ:「”妙心を噛む”じゃなくて?」

サキ:「…………」

エミ:「…………」

エミ:「……いまのは忘れて……。それでなんでこの曲?」

サキ:「ちゃんと理由があるよ。秒針って止まらないじゃん。妙心寺って、中絶してもまた復活して、応仁の乱で焼けてもまた再建して、ずっと止まらなかった。時間に抗い続けるって感じが、秒針を噛むっていうイメージに重なるなって」

エミ:「……あ、それすごくいい。ダジャレしか浮かばなかった、恥ずかしい」

サキ:「じゃあ次はエミちゃん」

エミ:「私はね。BUMP OF CHICKENの『話がしたいよ』」

サキ:「バンプだ。理由は?」

エミ:「指定品でなかったけど滋賀県の無相大師の木像が印象に残っているの。700年前に亡くなった人の顔が、木の中にずっと残ってる。”もう話せないけど、話がしたい”——お弟子さんたちが師匠の像を彫った気持ちって、きっとそれだったと思うの」

サキ:「……うわ、お弟子さんたちがこの曲聞いたら号泣だね。3曲目いくね。MY FIRST STORYの『I’m a Mess』」

エミ:「おお急に、激しいの来た」

サキ:「”I’m a mess”って”めちゃくちゃだ”って意味じゃん。妙心寺って、没収されて、焼かれて、何度もめちゃくちゃにされてるのに、そのたびに立ち上がってる。ボロボロの中から不屈の精神で復活するのって、まさにこの曲のエネルギーだなって」

エミ:「修行ガチ勢の魂ね。いい選曲。4曲目は私で、[Alexandros]の『閃光』」

サキ:「あー、ガンダム閃光のハサウェイ! なんで?」

エミ:「天球院の障壁画の部屋に入った瞬間のこと覚えてる? 三方を金碧画に囲まれて、二人とも言葉が出なかった。あの”目に飛び込んできた金色”は、まさに閃光だったの」

サキ:「わかる……! あれは閃光だった。目がバチッてなったもん」

エミ:「”何千回だって何万回だって”っていう歌詞も、厳しい修行を何百年も続けた妙心寺にちょっと重なるかなって」

サキ:「5曲目、Orangestarの『SURGES』」

エミ:「ボカロきた。なんで?」

サキ:「SURGESって”押し寄せる波”って意味でしょ。白隠さんの禅画を1万点描いたっていうエネルギー。あと、白隠さんから始まって臨済宗全体に広がっていった法の波。一人の坊さんから始まったものが全部を塗り替えるって、すごい波だなって」

エミ:「白隠さんの影響力をSURGESで表すの、センスいいわね。6曲目、米津玄師の『アイネクライネ』」

サキ:「米津さんだ。理由聞きたい」

エミ:「”アイネクライネ”はドイツ語で”ある小さな”っていう意味でしょう。棄丸の小さな鎧を見た時に、この曲が浮かんだの。2歳で亡くなった小さな子のために、秀吉が作らせた小さな甲冑。”あなたが関の山から降ろす手を関の声を関の温度を”……ここの歌詞の”あなた”が、もう会えない小さな存在に重なって」

サキ:「……エミちゃんまた泣きそうだよ」

エミ:「泣いてないわよ……泣いてるかも…もう、そんな見ないで、はやく次いこう」

サキ:「7曲目、ヨルシカの『花に亡霊』。これは二人で被りそうだから先に言うね」

エミ:「あ、わかる気がする」

サキ:「天球院の花鳥画。金色の背景に咲いてる花って、もう何百年も前に描かれたものなのに、まだ咲いてるじゃん。”花に亡霊”って、花の中に誰かの魂が宿ってるみたいな感じでしょ。天球院を建てた女性の想いが、あの花の中にまだ生きてるのかなって」

エミ:「……それ、いま私が言おうとしてたのとほぼ同じ」

サキ:「でしょ」

エミ:「悔しいから8曲目で一気に巻き返すわ。これは絶対にかぶらない。ゲスの極み乙女。の『私以外私じゃないの』」

サキ:「えっ、ゲス? 意外。なんで?」

エミ:「”私以外私じゃないの”って、まさに一子相伝の精神じゃない? たった一人にしか法を伝えない。代わりがいない。その一人だけが”本物”を継承する。師匠と弟子は二人の人格じゃなくて同じ一人になっちゃう。そういう禅の覚悟と孤独を、この曲のタイトルが言い当ててるなと思って」

サキ:「……なるほど。禅の継承を”私以外私じゃないの”で表現するのは予想外だった」

エミ:「ふふ」

サキ:「じゃあ、9曲目、ロクデナシの『鯨の落ちる街』」

エミ:「いい選曲ね。なんで?」

サキ:「南蛮鐘のことを考えてたの。1577年に作られて、教会から仁和寺に渡って、そこから妙心寺に辿り着いて。ずっと沈んでいくみたいに、時代の底を漂い続けた鐘。”鯨の落ちる街”の、深い海の底に何かが静かに沈んでいくイメージが、あの鐘の450年の旅に重なったの」

エミ:「サキちゃん、今日の選曲ぜんぶ詩的すぎない?」

サキ:「……エミちゃんの一人語りが伝染うつったのかも。エミちゃんのせいだから」

エミ:「嬉しいけど責任転嫁されてる。10曲目、Vaundyの『タイムパラドックス』」

サキ:「あー、好き。理由は?」

エミ:「妙心寺って、まさにタイムパラドックスの塊だなって思って。南北朝時代の開山があって、桃山時代の金碧画があって、江戸時代の白隠さんがいて、そして2026年の私たちがそれを見ている。ぜんぶの時代がひとつの場所に同居してるの。時間感覚がおかしくなるのよ、妙心寺って」

サキ:「タイムパラドックスっていうか、タイムカプセルでもあるよね。いろんな時代のものが全部そのまま残ってる」

エミ:「そうそう。そろそろクライマックスね。11曲目はRADWIMPSの『スパークル』で」

サキ:「『君の名は。』の最後の盛り上がるやつだ」

エミ:「”美しい名前の由来になるように”って歌い出しがあるじゃない。きょう見た唯一の国宝。あれって師匠が弟子のために名づけた「開山」という名前。名前に込められた想いが、700年経っても輝いてるっていうのが、スパークルそのものだなって」

サキ:「……時を超えて届く光ね。『君の名は。』のテーマとも重なる」

エミ:「最後の12曲目はサキちゃんどうぞ」

サキ:「和楽器バンドの『千本桜』!」

エミ:「おお、フィナーレ感ある! 理由は?」

サキ:「理由はもうシンプルに。今日見た展覧会のスケール感そのもの! 和の楽器でロックやるっていう和楽器バンドのコンセプトが、禅寺なのに金ピカでゆるキャラでキリシタンの鐘もあるっていう妙心寺のカオスさにぴったりじゃん。あと、前編の桃山時代の狩野派から後編の白隠・仙厓まで、まさに”千本”の宝物を見た気分」

エミ:「カオスで壮大でなぜか全部が調和してる。妙心寺そのものね」

サキ:「しかも和楽器バンドってボカロの千本桜をカバーしたところから始まったでしょ。ボカロ→バンドっていう”継承”もあるし」

エミ:「……”禅の継承”と”音楽の継承”をかけてくるとは。サキちゃん、今日は輝いてるよ」

サキ:「……そかな(照)。今夜はカラオケでぜんぶ歌おうね」

エミ:「12曲全部!?」

サキ:「当然。あとトライアングラーも」

エミ:「そうだね!アンコール曲として13曲目は坂本真綾の『トライアングラー』で決まり!カラオケではデュエットできる「fight on stage」バージョンで」

### 今日のプレイリスト

1. ずっと真夜中でいいのに。「秒針を噛む」——中絶しても止まらなかった妙心寺の時間
2. BUMP OF CHICKEN「話がしたいよ」——700年前の師匠の顔を木に刻んだ弟子たちの想い
3. MY FIRST STORY「I’m a Mess」——没収も戦火もくぐり抜けた修行ガチ勢の不屈
4. Alexandros「閃光」——天球院の金碧画に包まれた瞬間の衝撃
5. Orangestar「SURGES」——白隠から臨済宗全体へ押し寄せた法の波
6. 米津玄師「アイネクライネ」——ある小さな甲冑、棄丸へのレクイエム
7. ヨルシカ「花に亡霊」——天球院の花鳥画に宿る、建立者の魂
8. ゲスの極み乙女。「私以外私じゃないの」——師匠から弟子たった一人への継承
9. ロクデナシ「鯨の落ちる街」——450年、時代の底を漂い続けた南蛮鐘
10.Vaundy「タイムパラドックス」——激動の鎌倉幕府滅亡から2026年の私たちまで
11.RADWIMPS「スパークル」——”開山”という名前に込められた700年の光
12.和楽器バンド「千本桜」——カオスで壮大、なぜか調和する禅の世界
13.坂本真綾「トライアングラー」——音声ガイドを思い出す曲

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