出光美術館(東京・丸の内)で4月23日から6月5日まで開催された『国宝手鑑「見努世友」と古筆の世界」を見に行きました。
出光美術館はコロナで長く閉館しており、ようやく本展で4月に再開したばかりです。事前予約制でした。予約自体はスマホとクレカがあればかんたん。
出光美術館は「六窯展」以来、手鑑を見るのは、今年春のMOA美術館の国宝手鑑「翰墨城」を見て以来です。
手鑑とは、古い書の名品を集めてアルバムにしたもの。この2つと、京都国立博物館の国宝「藻塩草」で、古筆三大手鑑と呼ばれています。国宝の手鑑は、さらに陽明文庫蔵で、近衛家に伝わった「大手鑑」があり、これを含めて4大手鑑とも呼ばれます。
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国宝の古筆手鑑「見努世友」は修復後初公開
古筆手鑑「見努世友」は、奈良時代から室町時代までの名筆を切り取った「切(きれ)」全229葉が収められています。
厚手の紙を横につなげて、パタパタと広がっていく蛇腹状(折帖装)の台紙の両面に、各古筆切が貼られた分厚い1冊のアルバムでした。
手鑑は、見て楽しむコレクションの目的と、古筆の鑑定を専門にする「古筆見」という職業の古筆家のために作られたものがあります。
古筆の鑑定自体は平安時代からありますが、桃山時代に古筆の鑑賞や収集がブームになると、古筆見(こひつみ)という専門家が登場します。
古筆鑑定が家業に
代表的な人物としてあげられる、古筆了佐(りょうさ)(1572~1662)は、豊臣秀次からその腕を認められて「古筆」の姓を与えられました。了佐は、近衛前久(さきひさ)(1536~1612)や烏丸光廣といった公家から古筆の鑑定を学び、家業としました。
個人的な勘や感性での鑑定から、家業の技として鑑定をするためにも、きちんとした参照元である手鑑を用意することは、とても重要なことでした。
この手鑑も、古筆家の台帳のひとつとみられています。
先の3大手鑑のひとつ、京博が所蔵する国宝「藻塩草」は、古筆家10代の古筆了伴(りょうはん)(1790~1853)が製作したことがわかっています。見努世友は、この藻塩草と構成(配列)が似ていることや、古筆切に付属するメモ(小札)が正式な鑑定書(古筆家が依頼されたときにつけるもの)の形ではなく、了伴が書いたとみられるシンプルなメモ(付箋)であることから、見努世友も古筆家の台帳として備えられていたようです。(小浜・酒井家旧蔵)
裏表両面から2冊に分割
しかし、両面貼りで1冊であることは鑑定に使うときは便利かもしれませんが、現代において、展示する際には裏側にある切がケースに触れてしまうなど問題がありました。そのため、修復にあわせて、保存と活用の観点から文化庁と協議し、片面貼りの2冊(帖)になりました。
物理的には、2冊を広げれば、229葉を一度に見られることになります。
ただ、お披露目展である今回でも、一度にすべてではなく、ページ替えがありました。私が行ったのは後期だったので、ページ替えがされており、残念ながら、優れた手鑑には最初にあるのがお約束という伝聖武天皇筆「大聖武(大和切)」を見ることができませんでした。
手鑑は、たくさんの古筆が1冊に集まっていることに意味があるので、展覧会で鑑賞する場合は、美術品というよりも、歴史資料に近い感じがします。
そんなこともあってか、国宝「手鑑」そのものよりも、その前後に展示されている一点一点の優れた書を見たことのほうが、美的には印象にのこりました。
ほかの館と合体すれば「国宝」の数々
第一章(手鑑展示は第二章)が素晴らしくて、時間をとられて、本命だった第二章はさらっと見るしか時間がなかったくらいです。
1番目の重文、伝朝野魚養「大般若経 巻第九十四(薬師寺経)」(奈良時代)からいきなりがつんときました。朝野魚養はあの空海の子どものころの先生です。空海の書にも影響を与えたはずです。そういう視点でみると、奈良時代の活字のようにかっちりした文字から、密教的とまでは言えるかわかりませんが、躍動する表現力が感じられます。
2番目の重文、絵因果経(奈良時代)。これもちょうど今、東京藝大で展示されていますが、東京藝大所蔵のものは国宝ですよ。東京藝大のほうが長いですが、こちらも充分なボリューム。奈良時代の絵って仏像もそうですが、ちょっとデフォルメされていて、かわいらしいですよね。
3番目の重文、扇面法華経冊子断簡(平安時代)。これも、大阪の四天王寺にある2つは国宝です。
4番目の無指定、紺紙金銀字阿育王経 巻第十(中尊寺経)。これも、中尊寺経の本体(?)は高野山にあり、もちろん国宝です。
などすばらしい名筆のオンパレードでした。
また、特集「茶の湯の美ー茶道具の名品」では、「なにこれ!この光に包まれる印象派的な!大好き」となったものがありました。
中国絵画の玉澗「山市晴嵐図」(中国 南宋時代末期 – 元時代初期 13世紀、東山御物)。ざざっと風が抜ける音が本当に聞こえてきました。ポストカードも全体とアップの2枚買ってしまいました。2枚を順番にみると、あの「ざざっ」という音とともに自分の視線がズームインする感覚を再現できます。これを見に、また行きたいと思わせる逸品でした。
(参考文献 展示図録「国宝手鑑「見努世友」と古筆の美)
展覧会データ
展覧会名:国宝手鑑「見努世友」と古筆の世界
会場:出光美術館
期間:2022年4月23日ー6月5日
入館料:一般1200円
我が国の書は飛鳥時代以降、中国の書法を取り込みながら和様化していくが、その中で平安時代には仮名が誕生するなど日本独自の文化が開花した。平安時代・鎌倉時代の優れた筆跡は南北朝時代には「古筆」と呼ばれ、今日に至るまで尊重されてきた。「古筆」は、一般的に平安時代・鎌倉時代の和歌を書いた筆跡を指すが、広くは古人の優れた筆跡や絵画のことを意味し、歌書だけではなく、写経や物語、懐紙や短冊、日記や書状など、その内容は様々である。色とりどりの料紙を用い、優美な線で書かれた筆跡には当時の美意識がうかがえる。これらは、のちの時代に賞玩されるなかで、切り分けられて古筆切(断簡)として鑑賞されるものも少なくない。古筆切は、鑑賞や蒐集を目的として掛軸や手鑑(古筆切を貼り込んだアルバム)に仕立てられ、多くの人の眼を楽しませてきた。
本展では、出光美術館の書の優品を厳選して、魅力あふれる古筆の世界を紹介。この度、綺麗によみがえった国宝の古筆手鑑「見努世友」も、修復後はじめて大公開する。
(展覧会の説明から引用)
見努世の友を見たおかげでまだ見ぬ「みぬ」さんに会えた
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