『三体』のループ世界は『進撃の巨人』に共通する?

2019年の日本SF界で最大の話題が中国の人気SF小説、劉慈欣『三体』の日本語版の刊行です。

早川書房での説明は以下のとおり。

 オバマ、ザッカーバーグ激賞 シリーズ合計2100万部突破、現代中国最大のヒット小説

尊敬する物理学者の父・哲泰を文化大革命で亡くし、人類に絶望した中国人エリート女性科学者・葉文潔。彼女が宇宙に向けて秘密裏に発信した電波は惑星〈三体〉の異星人に届き、驚くべき結果をもたらす。現代中国最大のヒット小説にして《三体》三部作の第一作

「三体」でググると、Wikipediaで項目が立てられているくらいですが、Wikiはあろうことか、小説なのに、全部のストーリーがネタバレしています。読もうという人は、Wikipediaは先に読まないほうがよいです。

読んでみての感想は、

「すんごく、おもしろい! 史強、サイコー!」

に尽きます。

中国現代暗黒史に踏み込む

天安門事件に次ぐ、中国共産党の暗黒歴史の「文革(文化大革命)」から、物語が始まるのですが、よく中国で許されたものだなあと感心(?)しました。
文革をたんなる政治抗争としてだけでなく、銃撃飛び交う内戦としても描かれているなど、かなり過激な描写です。(当然、当時の共産党指導部=毛沢東を批判的に描いています)

ところが、巻末の翻訳監修者の説明で、やはり中国で刊行された当初は、文革の部分は導入部ではなく、物語が少し進んだ章に置いてあったそうです。海外版つまり英語版から、作者が本来意図した文革からのスタートという構成になったとのこと。

今年、中国の漫画サイトで連載が始まっていますが、そちらは「中国オリジナル版」の順になっているようです。

ニューダークヒーロー史強

日本のSF小説界は、小説なのに、細かい設定までが科学的・物理的に正しいかどうかで、作品の価値を判断する「SF警察」と揶揄されるマニアたちによって、市場としては壊滅状態なのだそうです。
もっとも、SF警察の多くも、作品を貶めるつもりはないんだと思います。
自分もよい本だと思って熱中して読めば読むほど、誤字脱字に気づいたりします。が、ブログやSNSでそのことを指摘すると、本全体を評価しているのに、どうしても批判的と作者に思われて、作者のテンションが下がったら、いやだなと忖度して、そっと心の底にしまう(Kindleだと該当部分をメモにしております)ことが度々です。

三体は、科学的な知識にとぼしい私でも、最後のパナマ運河での攻防とか、ぷっと吹きそうになりましたし、「三体 感想」でぐぐると、いろいろ指摘もあるようです。

そうした、細かいことはほっといても一気に読ませるエンターテイメント小説として、すばらしい作品ですので、中国史に多少興味のある人なら、SF苦手でも楽しめると思います。

正直、三部作だそうです。今の所、「三体」での終わり方は満足感ありますので、2部(2020年予定)以降はあまり読まなくてもいいかもと思っているのですが、「史強」のスピンオフが出たら、それは買おうと思います。

進撃の巨人はループするのか

で、表題の問題です。

『三体』の異星世界は、文明の発展と滅亡を200回くらい繰り返す「ループ」がポイントです。
ループしながらも確実に進化するところが、共産主義的な歴史観とマッチしており、そこが刊行を許された理由かなぁと邪推しています。

さて、我ら(日本)が誇るSF(?)漫画の『進撃の巨人』は佳境を迎えており、2019年12月9日には30巻が発売予定です。
当初の謎はほとんど29巻までに明かされていますが、明らかになっていない伏線のうち、最大の謎が、1巻で、エレンが昼寝をしながら見ていた夢の中の「起きてエレン」と声をかける大人っぽいミカサです(このとき、エレンやミカサは子供だった)。「2000年後の君へ」がキャッチフレーズでしたし。

私は、おもわせぶりな「845」と「847」という数字も、西暦的な年号とミスリードさせて、実はループした回数のことを意味する、巨人を倒したあとになって再び巨人が存在する過去に戻る、というオチだと、当初は考えていました。

このループ説(私だけでなく進撃ファンにはループ説をとなえる人が多くいます)は、外の世界が明らかになることで、「はい、またやり直し」というような単純なループではなさそうになっています。

ともかく、伊藤計劃以外に、最近の日本のSF小説を読んでいない標準的な日本人読者の私も「三体」を機にSF小説も読んでみようかという気分になりました。日本発の面白いエンターテイメントなSF小説も盛り上がるといいなと心待ちにしています。

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