雪舟は室町時代の草間彌生だった 根津美術館「将軍家の襖絵」(2022年)感想

※この記事は、2022年秋に根津美術館で見た特別展の感想記事です。志村けんさんを例にあげたのはその2年前にコロナで亡くなった印象がまだ強かったからです。(今回MVを作るときまで、正直、志村けんさんのことは2026年の今、ほとんど忘れていました)。一方で、この当時、ご存命だった草間彌生さんは今年亡くなられました。お二人のご冥福をお祈りします。

水墨画のツボは「渋さ」じゃなかった

雪舟を筆頭とする水墨画の良さは、モノクロで「渋いこと」。そう安易に考えてきたけれども、最近、禅宗パリピ説に傾倒しているので、そうじゃないだろうと。

結論から言うと、白と黒にポイントがあるんではなく、「瑞々しさ」こそが水墨画の美の壺。この展覧会を見て、悟りました。

墨は、にじんで、溶けて、紙に染み込んで、広がる。何百年も前の絵なのに、ガラスケースの向こうの墨は、まだ濡れて光っているように見えました。

表題の通り、雪舟は室町時代の草間彌生だったってことです。にじんだ墨の点は、水玉の予感。それで購入するのはヒルズ族(古くさっ)ね。

わーいわーい、分かった分かった!と喜んでいたら、なんのことはない。

> 『國華』編輯委員で学習院大学教授の島尾新は「水墨のみずみずしさを活かした夏珪の絵に対して、岩のかたちも梅の枝振りも力強く、色もきっちりと着けられて、かなり雪舟風のアレンジになっています」と語る。
> ([美術手帖「84年ぶりに再発見された雪舟「幻の作品」、東博で公開決定!」](https://bijutsutecho.com/magazine/news/exhibition/12531))

とな。

もう当たり前に、専門家は「瑞々しさ」をポイントに挙げてるンですね。

島尾先生が語っているのは、本展の目玉展示のひとつ雪舟の《倣夏珪山水図(ほうかけいさんすいず)》のことです。中国・南宋の画家、夏珪かけいの画風に倣って描いた一枚で、84年ぶりに再発見されて話題になりました。室町時代は中国絵画がいちばんエラかったので、画家たちは「夏珪風で一枚」みたいな注文に応えていたんだそう。

ところが雪舟は、お手本をなぞるどころか、岩はゴツゴツ、梅の枝はぐいっと、色までしっかりのせちゃって、まるっと雪舟アレンジ。夏珪の瑞々しさを、自分の力強さで上書きしているわけです。

ちなみに今回の展覧会にも、倣夏珪山水図のほか、夏珪の山水図巻のモチーフや表現を受け継いだとされる芸愛(げいあい)の《山水図巻》(重要文化財)が出ていました。夏珪は、室町の水墨画のお手本中のお手本だったんですね。

思い込みの”犯人”は銀閣寺? いえ私自身です

では、なんで、私を含めて多くの人が、水墨画=地味=だがそれがイイ!と思ってきているのだろうか?

銀閣寺のせい?かもと思いました。

でも、銀閣寺をつくった将軍(8代・足利義政)は、パリピの権化。会所なんてのは、室町時代の鹿鳴館ですわ。

飲んで歌って踊っていたに違いありません。

そして、この展覧会のテーマこそ、その「会所」を飾っていた襖絵でした。将軍邸で人が集まる会所の襖絵は、足利将軍家が何度も引っ越したこともあって、一枚も残っていません。そこで、記録に残る画題をもとに、同じ画題・画風の屏風絵を集めて、失われた将軍家の襖絵をよみがえらせよう、という展覧会です。

並んでいたのは、中国から来た「唐絵」と、それをお手本に日本の画家が描いた「和製の唐絵」。四季の山水に、異国の騎馬民族が狩りをする絵、色あざやかな日本の名所、山水の中に配された花と鳥。渋いモノクロの部屋どころか、けっこう賑やかです。

なんか室町時代っておもしろいかもしれないです。

わびさびは、あとから付いた解説なのかも。犯人は銀閣寺じゃなくて、「水墨画は渋いもの」と思い込んでいたワタシ自身だったのかもしれません。

国宝《鶉図》は室町のワンニャン動画

今回の目玉のもう一つ(いくつも目玉があるすごい展示でした)は根津美術館の国宝《鶉図》李安忠筆、中国・南宋時代 12〜13世紀。

国宝のウズラ図?

あれは、あれですよ。

ワンニャン動画。『天才!志村どうぶつ園』でしたっけ? お下品ギャグで一時代を築いたお笑いのおじさん(志村けんさん)が、動物を愛でてキャッキャウフフするやつ。

やんごとなき人たちとそうこうしてるうち、単なる野蛮人だったおじさん≒初期の足利将軍だったのに、知識人≒6代以降あたりの足利将軍、なものにクラスアップ。

「だいじょうぶだぁ」や「だっふんだ」が床の間に飾られて、ありがたいけど意味不明な禅の掛け軸として、珍重されるのであった、みたいな。

この《鶉図》を持っていたのは、6代将軍・足利義教です。おみくじで将軍になった、ある意味、成り上がり。それに加えて、非常に残虐な性格と行動で、恐怖政治を敷いた暴君であり、臣下の赤松氏に暗殺されたことが有名です。

この暴君がかわいい飛べない鳥の絵を愛でていたというのも、衝撃であり、この「パリピ説」に結び付きました。それにしても、このウズラちゃん、ふわふわして、とても可愛くて、思わずにっこりしちゃいます。

**展覧会情報**
– 特別展「将軍家の襖絵 屏風絵でよみがえる室町の華」
– 会期:2022年11月3日(木・祝)〜12月4日(日)※終了しました
– 会場:根津美術館(東京・南青山)
– 公式サイト:https://www.nezu-muse.or.jp/

**参考**
– 美術手帖「84年ぶりに再発見された雪舟「幻の作品」、東博で公開決定!」 https://bijutsutecho.com/magazine/news/exhibition/12531
– アイエム[インターネットミュージアム]「将軍家の襖絵 屏風絵でよみがえる室町の華」レポート https://www.museum.or.jp/report/109321

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