道化として生きている社会人のための小説『半沢直樹 アルルカンと道化師』(池井戸潤)

TBSのドラマ「半沢直樹」が記録的な視聴率で終わりました。 初半沢でしたが、ふつーに面白く、もう「おしまいDEATHか?」とプチ半沢ロスです。 ちょうど、原作の池井戸潤の「半沢直樹」シリーズの最新作が6年ぶりに出版され、半沢ロス者への福音となっています。そんな一人である私も、読みました。 しかも、現在は、冒頭部の試読キンドル版が無料で公開されています。

さすがに原作、ドラマの登場人物が脳内再生されるくらいに面白かったです。 小説の筋を紹介しても、なんなので、道化師としての半沢直樹について考察してみました。

道化師としての半沢直樹

 

道化師がする行動の最も普遍的なことは、楽しませることである。 道化師は観衆を楽しませ、笑わせるために、技やトリックで表現する。


半沢直樹は、真のピエロです。 彼は偉業やトリックを表すだけではなく、視聴者や読者の感情を再生します。
半沢は、憂鬱なピエロ、愉快なピエロ、恐怖のピエロのそれぞれのピエロをみせます。

面白いピエロであるが、(左遷など)非常に悲しい一面もある。半沢は、視聴者・読者を心底笑わせて、その後、より泣かせるように誘導します。

半沢は怖いピエロです。 視聴者の顔を感情で赤くさせたり、青くさせたり、涙で目をあふれさせ、その後、六腑が傷つくほどに、笑わせる。
半沢は憂鬱なピエロです。 おなかが痛くなるほど笑わせてくれるが、その後、氷水のバケツを頭の上にひっくりかえす。

この世界は、本当に劇の舞台であるかのようです。 この舞台には様々な役を演じる人がいますが、それぞれが自分なりに生き残るという同じ目標を持っています。 成功や快楽は、幸福のための重要な要素ですが、人間を駆り立てる生存本能に直結するのは、「倍返し」つまり復讐心です。

小説で人生をシミュレーションする

子供は、モノポリーをはじめおままごとをして遊びますが、なぜわざわざ、大人になったらやらなければならない役割を演じているのでしょうか?  大人は、楽しいことばかりではなく、時には、自分ではなく、他の人が生き延びるために自分の財産を手放すなど、犠牲を払わなければならないことをそこから学べるからでしょう。

おままごとは、複数の人生の中で様々な役割を果たすことができ、他人や世界との関わり方を事前に学ぶことができる、生存に直結する優れた遊びです。 これらの経験は、脳のデータベースのようなものに保存され、いつでもアクセスできる知識の貯蔵庫となり、その人の未来のかてになります。

大人になってから、おままごとに代わるものが、他人の人生をシミュレーションできる小説やドラマになります。半沢直樹をはじめとする池井戸潤のビジネス小説は、そうした点からも、大いに人生に役立つ読書として、貴重な日本文化の骨のひとつになっています。現代の日本人の精神を支えている力をもつのは、万年ノーベル賞候補の村上春樹よりも池井戸潤なのではないでしょうか。

このようにして、私たちは社会の中で生き残り、繁栄するための方法をフィクションを通して、考え出すことができます。

倍返しか土下座か

人生で成功したいなら、自分の性格に合った役を演じるのが一番です。
生まれついての「半沢」という正義感の強い人も(希少でしょうが)いれば、自分の人生を思い通りに演出したいという「大和田」になりたいという人もいます。友情を大事にするバイプレイヤーの「及川光博こと渡真利忍」(逆か)になりたい人も多いでしょう。

人生を通して、あなたは様々な役を演じることになります。 一つの役が自分に合っていないことに気づくことも往々にしてあるでしょう。それは「倍返し」もしくは「土下座」によって、人生の方向性を変える大チャンスなのかもしれません。(なお、『アルルカンと道化師』には、大和田は出てきません)

 

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