指輪物語か?谷口 美代子『平和構築を支援する』が面白い

ようやく再開の県図書館でたまたま見つけた谷口美代子著『平和構築を支援する』(名古屋大学出版、2020年)がめちゃくちゃ面白い。

イスラム系の住民が独立運動をしているフィリピンのミンダナオ島(とその周辺島嶼部)の「歴史絵巻」だ。

JICAの現地での支援をしていた経験のある著者による博士論文なのだが、全然知らない異世界の歴史と政治が、略称だらけで書かれており、最初はその世界観が掴めなくて、読むのが苦痛の『指輪物語』のようだが、略称や聞いたことのない人物名が理解できると、一気に壮大な歴史絵巻が展開される。

もともと、シリアと、ウクライナ、そしてミンダナオは、日本にいると「突然」のように戦争が始まってびっくりしたのだが、当然、急に始まったわけではなく、それぞれに伏線としての歴史があるのだ。

とりわけ、2017年に、シリアで幅をきかせていたIsis(イスラム国)が、フィリピンのミンダナオ島のマラウィ市を占領して、五か月に渡り「籠城」して、剛腕ドゥデルテ大統領によって町ごと破壊された。

「はあ?」としか言えない事件だったが、本書では、フィリピン南部における、ソ連のアフガン撤退とシリアのイスラム国の衰退によって、流れてきた失業軍人(聖戦士=ムジャヒディン)や、そもそもアメリカなんかよりずっと長い歴史のある植民地以前のイスラム系の王国などなど、そこに至るまでの歴史的な経緯が、現地にいたからこその緊迫感とリアリティを伴って、叙述される。

親と兄弟を敵対軍閥によって殺されながら、復讐の連鎖を断ち切り、チキータバナナなど経済振興の道を選んだ、少数の「成功例」なんて、全比(フィリピン)が涙!ってくらい感動した。(この本を読んでから、スーパーでバナナを買うときは、フィリピン、それもミンダナオ産をなるべく買うようにしている。ミンダナオと表示されているバナナもけっこうあるので、ぜひ店頭でチェックしてみてほしい)

本は6000円もするので、ぜひ新書化して、多くの人に読んで欲しいものだ。

トップの写真はぱくたそで、フィリピンの写真ではありません。

関連記事

  1. 砲火の下を若いドイツ将校に身を守られてハイヒールで走った杉原千畝の妻の回顧 書評『六千人の命のビザ』

  2. 道化として生きている社会人のための小説『半沢直樹 アルルカンと道化師』(池井戸潤)

  3. 三体にパワースポットに山口組2020年に歴史好きがおススメする歴史以外の5冊 

  4. 紫式部曰く「朝日新聞は良くあるノンフィクション風のフィクションですね」

  5. サーキュラー・エコノミーとはなにか?持続可能、SDGs、クローズドループ

  6. インパール作戦の師団長解任とコロナ下の少年ジャンプの異動の共通点

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。