【書評】邪馬台国と卑弥呼と三角縁神獣鏡の関係が「ととのった」岩本崇『三角縁神獣鏡と古墳時代の社会』

これはすごい本である。2021年の初読書ですご本を引き当てた。しかも電子書籍で。
価格は5500円。だが、角川書店の電子書籍BOOKWALKERではお正月で40%のポイントバックをしていたので、思い切って買ったが、非常によい買い物だった。

日本のなりたちをアップデート

一言で言うと、「邪馬台国」と「前方後円墳」について、考古学の知識を相当にバージョンアップできる本だ。「日本」のなりたちについてのOSをバージョンアップすると言い換えてもよい。

邪馬台国好きは、一度、読んで、本書の結論を、自分なりの消化をしてみると、魏志倭人伝の読み方や中国語の発音ばかりを重視する伝統的かつおなじみの「私の邪馬台国」論をも、冷静に、かつ突っ込みながら楽しめるだろう。

その本は、岩本崇『三角縁神獣鏡と古墳時代の社会』(六一書房)。著者の岩本氏は考古学が専門の島根大准教授で、2020年10月刊行。

まず本書の結論を網羅している、核心的な概念図を引用する。見てもさっぱり意味がわからないと思う。このエントリーの最後にも同じ図を載せる。この書評だけで、本書の趣旨が伝わるかはわからないが、実際に読んでみると、この概念図のすごさが理解できる(かもしれない)。

岩本 崇 『三角縁神獣鏡と古墳時代の社会 』(六一書房)より

邪馬台国と三角縁神獣鏡の関係のおさらい

邪馬台国を考える上で欠かせないのは、「邪馬台国」と記録をしてくれている中国の史書「魏志倭人伝」(正確には、三国志の中の魏書の章「東夷伝」の「倭人」コーナー)。日本側には、「邪馬台国」も「卑弥呼」も、文字史料では残っていない。

日本側の物証としては、考古学に頼るしかほとんど術なく、ずっと注目されているのが、銅鏡、いわゆる三角縁神獣鏡だ。

「三角縁神獣」というパワーワードは、実は最近できた現代用語だ。

丸い鏡の縁の部分の断面が三角形(模様が三角形だからではない)で、東王父・西王母・伯牙・黄帝など中国古代の神仙世界の「神」や、龍や白虎といった「幻獣」がデザインされているから造られた言葉。

三角縁三神三獣鏡(三仏三獣鏡) 奈良県広陵町・新山古墳出土 宮内庁蔵(東京国立博物館展示)(Wikipediaより)

出土はすべて日本国内

すべて日本の古墳からの発掘品で、約580面が見つかっている。

ごく一部(4枚)に、魏の年号である景初三年=239年(1枚)、正始元年=240年(3枚)年の文字がデザインされているのがポイントだ。

魏志倭人伝で、倭の女王・卑弥呼が魏へ使節を送った景初二年六月(238年)と符号し、そのなかの銅鏡100枚を送ったとする記述とも一致する。

ちなみに、魏と交戦状態にあった中国東北部を支配する公孫氏の「燕」が魏に滅ぼされたのが景初二年八月なので、魏志倭人伝の景初二年は三年の誤りとする考えも根強いので、これも整理しておこう。

卑弥呼は、魏の都(洛陽)に直接使節を送ったのではなく、帯方郡を経由している。帯方郡は、現在の平壌とソウルの間のあたりだ。

このころ、朝鮮半島には、帯方郡とそのの北に楽浪郡という2つの郡があった。楽浪郡は現在の平壌にあたる。帯方郡は、楽浪郡の南を分割して、公孫氏が作った郡ではある。

だが、建国(建郡)したからといって、滅亡の二か月前にも公孫氏が完全に朝鮮半島を支配していていたかは別問題だ。しかも、楽浪郡は衰退しており、この頃、すでに実質はなかった(楽浪郡の機能が帯方郡に移った)とも言われている。

というわけで、魏志倭人伝にある景初二年六月を否定して、三年だと断定する根拠は意外と薄弱だ。だが、イミダスのような事典までもが、卑弥呼の使遣を「景初三年」と断定しているのはやりすぎだろう。(原典は景初二年だが三年説もある、とするならわかる)

3世紀の朝鮮半島(Wikipediaより)

質の高い鏡は中国製、質の悪いものは日本製と見る従来説

脱線したので、話を戻す。
ともかく、魏およびその後継国の晋の皇帝から日本(倭国)に贈られた鏡が、「三角縁神獣鏡」であろうと有力視されている。

ところが、中国や朝鮮半島での出土は現在まではゼロ。

となると、魏志倭人伝を参考にした、国産の鏡ではないのかとも考えたくなる。魏志倭人伝には100枚とあるが、それをとうに超える枚数(約580面)が出土している。

そこで、出てきた説が、三角縁神獣鏡を、品質の高いものを中国産(もしくは中国から日本に来た技術者が作った)、品質が劣るものを日本で作ったコピー商品と、2つにわけることだ。

ようやく、この本の紹介になるが、この本では、それを否定して、すべて中国産とする。論拠は、考古学である。そのなかには、鋳造したときに流れる金属の方向性など、科学的な分析も含まれる。

考古学の専門的な研究書なので、魏志倭人伝などの文献を、無理やり結びつけることはできるだけ避けられている。そのため、逆に、素人の歴史ファンとしては、読み通しても、歴史像となかなか結びつかない。

本書を読んでは、途中で「魏志倭人伝」を読み、本書を読み進めては、Wikipediaを読みと、考古学と年表的な歴史情報を、結びつけながら、四苦八苦しながら、ようやく読み終えた。

そこでこの本から(自分として)理解したことは、かなり重要なことだった。

中国にとって日本が外交的に重要かどうか

中国と日本の関係性、もっといえば、中国にとっての日本の重要性の推移が目に見えることだ。

具体的には、先述したように、魏は敵の公孫氏を牽制するために日本(倭)を外交的に重視した。このことはすでに言われていることではある。

魏は公孫氏を滅ぼしたのだから、日本の重要性は失われたと思いがちだが、魏にとっては公孫氏よりも、さらに強力なライバルが残っていた。三国志の「呉」である。日本列島は、朝鮮半島の裏にあるだけでなく、中国沿岸部の呉の後背部でもあるのだ。

三国の勢力圏とその地方行政区分(Wikipediaより)

では、呉が滅んだら、日本は不要になるのか?

本書が示すのは、その通りなのだ。年表をのせる。

220年 「蒼天航路」の主役曹操が死に、息子の曹丕が漢から禅譲を受けて、魏帝国となる。(漢の滅亡)
238年 卑弥呼が使節を送る。魏の皇帝は鏡100枚などを倭に贈る。公孫氏が滅ぶ。帯方郡は完全に魏の直轄地になる。
263年 魏、蜀を滅ぼす。
265年 魏でクーデターが起き、臣下の司馬炎が魏から禅譲を受けて皇帝に。対外的には魏の継承国家(晋帝国)
280年 晋が呉を滅ぼし、統一帝国に。(晋の統一)

本書の結論からすると、(質の高いほうの)三角縁神獣鏡の制作年代は、ほとんどこの間におさまる。中国(魏・晋)にとって日本(倭国)の政治的な利用価値がなくなると、わざわざ手間をかけて、贈呈用の特注品を作ることをしなくなるという、しごく当たり前の結論でもある。

その後は、日本からのリクエストがあると、汎用的な鏡生産のラインをちょっといじったもの(質の低い、これまで日本製とされたもの)をつくり、日本へ送ったようだ。(このときはもう無料のプレゼントではなく、日本からマネー的な報酬をとっていたかもしれない)

ガンダムでいうと、ジオン公国は、最初はルナ2に、シャア専用のザクを贈っていたが、宇宙空間をほぼ制圧してルナ2の戦略的な価値が低くなったので、あたまに角をつけただけの隊長機用ザクを送る(売る)ような感じだ。

三角縁神獣酒の見立て

この本の趣旨をわかりやすくするために、大胆に、時代設定を架空の明治時代、三角縁神獣鏡を架空の高級ウイスキーにみたててみた。(架空の話なのでウイスキーの話などは適当な創作ですので、上のガンダムとあわせて、その点はご了承を)

ヨーロッパの覇権を握ろうとしている大英帝国(三国志時代の魏、のちに晋)に、はるか極東の日本(倭国)から同盟をもとめて使者がやってくる。

大英帝国は、ライバルのロシア()の後背に位置するため、まだ新興国ながらも日本を大歓迎する。
大英帝国の皇帝は、使者から日本人の好みを聞いたところ、酒が好きだという。

当時、イギリスでは、シングルモルツという新しい製法によるウイスキーが開発され、これまでにない蒸留酒として人気を集めていた。そこで使者に飲ませたところ、「ぜひ日本に持ち帰りたい」と大喜びをする。

そこで、大英帝国は、日英同盟(朝見)を記念して、ウイスキーの生産地に日本専用のウイスキーの醸造を指示する。専用の樽で、日本人の好みに合わせてフレーバーやブレンドも行う特注品だ。

できたウイスキーは、三角の瓶に入れ、ラベルには、玄武など東洋の神獣をイラストが描かれ、日本では、通称「三角瓶神獣洋酒」と呼ばれた。100本限定の生産で、すべて日本の使者を通じて、日本へ輸出された。

その後も、同盟関係が続いている数十年、毎年、100本ずつの三角瓶神獣洋酒は、日本のためだけに作られ、すべて日本に送られた。

当時の日本は戦乱の戊辰戦争(漢の桓・霊帝時代の倭国大乱)を経て、これまでの将軍(男王)に代わり、諸藩が擁立した祭祀を掌る天皇(卑弥呼)を擁立した統一政権=明治政府(邪馬台国)が誕生していた。

だが、この政府は、実際には薩長(近畿地方)ばかりが政権の上層部を固めていた。

そのため、このウイスキーも当初は、天皇周辺や薩長の有力者のみに配られた。

それまでの日本では酒といえば、米が主原料の日本酒だったので、このウイスキーの「麦」と「蒸留」という全く日本では初見の酒は、文明開化の象徴、平成時代ならiPhoneのように、持っているだけで「最新トレンドなおしゃれアイテム」であった。

まだ、20~30代で若いイケメンだった伊藤博文がこのウイスキー「三角縁神獣酒」を渋谷のバーで傾けようものなら、みな最新トレンドとして大騒ぎしたものだ。

ところが、若者にとって新しいアイテムは、年月がたつと、「新しさ」ではなく、「伝統的」「権威的」なものとみなされるようになっていく。かつての千円札に描かれたおじいちゃんの伊藤博文が銀座でウイスキーを傾けると、人は「おしゃれ」「新しい」は感じなく、「威厳」を感じるのだった。

伊藤博文(Wikipediaより)

こうして、とりわけ限定生産の三角瓶神獣酒は、持っていることだけで権威を高めるようになる。

天皇家か薩長に限定されていた配布先も、幕臣だった渋澤栄一や盛岡藩出身の原敬など、地方出身でも地位が極めて高い人物には、個別に天皇家に大量に保存している三角縁神獣酒がお裾分けされる。

一方、大英帝国(魏から晋へ禅譲)は、ライバルのロシア()への牽制として日本を重視したわけだが、帝政ロシアが滅亡し、イギリスはヨーロッパ統一帝国となる(晋が呉を滅ぼし、中国統一)。

このことは、イギリスにとって、日本の重要度が相対的に少なくなることを意味した。

国費を投入していた日本専用のウイスキー作りへの補助金がだんだんと減らされていく。日本も自立してきて、イギリスの影響度をむしろ回避していくようになる。大英帝国の王から日本の天皇へ下賜される形式だったので、なおさらだった。

イギリスのウイスキー生産地では、補助金がなくなったため日本専用の酒造蔵を、一般のウイスキー作りの蔵に転用する。ときどき、駐ロンドン大使の着任時などに、日本から三角縁神獣酒の新規発注もある。

そのとき、ウイスキー会社は残っているレシピを使い、一般のウイスキーにフレーバーなどを調整し、かつての「三角縁神獣酒」と似たウイスキー(「ほう製」三角縁神獣鏡、*<ほう>は、にんべんに方)を作るようになる。元祖の「三角縁神獣酒」とは質が若干落ちるのは、フルオーダーメイドから、簡易オーダーメイドに省力化されたからだ。

また、三角縁神獣酒を真似て、国産のウイスキー作りも始まる。(倭鏡

そして、汎用品を改良した新しいタイプの「三角縁神獣酒」もある時に、ぱたりと消える。呉を滅ぼしたことでわざわざ日本のために鏡を作ることが激減していたことに加え、そもそも大英帝国が崩壊した(晋の滅亡)からだ。

213年 曹操が漢の最後の皇帝献帝から魏国公に任命される。(3年後に国王)
220年 曹操が死、息子の曹丕が献帝から禅譲
238年 卑弥呼が使者を魏に送る。魏が銅鏡などを贈る。公孫氏滅亡。
265年 魏から禅譲を受けて、司馬炎が晋を建国。
280年 晋が呉を滅ぼし天下統一。このころから三角縁神獣鏡の質が落ちる(ほう製)。
316年 北方民族の匈奴に晋が滅ぼされる。このころ三角縁神獣鏡がぱたりと消える。「ほう製」なら生産は続いてはず

繰り返しになるが、本書は5500円する。しかし、今年一番に読んで、今年最高の本である(当たり前)。冒頭の文を繰り返すが、<邪馬台国好きは、一度、読んで、本書の結論を、自分なりの消化をしてみると、魏志倭人伝の読み方や中国語の発音ばかりを重視する伝統的かつおなじみの「私の邪馬台国」論を、冷静に楽しめるだろう。>

岩本 崇 『三角縁神獣鏡と古墳時代の社会 』(六一書房)より

これだけ弥生末~古墳時代への移行という重要な時代についての重要な説を提示しているのだから、おそらくいずれ、吉川弘文館の歴史文化ライブラリーなどの選書や新書として、わかりやすい形で本になるとは思う。だが、筆者はこれが単著では初めてとのことなので、遅筆な方だったら、啓発書の形ではなかなか世に出ないかもしれない。

いつ買うの、いまでしょ?

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