京博の「宋元仏画展」が伝説レベルでヤバい

サキ: エミちゃん、この間のストーリーに京都タワーの写真上げてたね!
エミ: そうなの!ちょっと我慢できなくて、京都国立博物館(京博)に行ってきちゃった。

サキ: また、京博(キョウハク)! 夏にも行ってたし、春にも行ってるよね
エミ:京都大好きだからね。GWは「日本、美のるつぼ」展、夏は「釈迦堂縁起」展だよ。

サキ: 私、まだ行ったことないんだよね、京博。エミちゃんに誘われて東博(トーハク)とか都美(トビ)は行くようになったけど、京都はハードル高くて。…で、何見てきたの?

エミ: 特別展「宋元仏画─蒼海を越えたほとけたち」という展覧会よ。

サキ: ソーゲン?仏画?また渋いというか、マニアックな…。

エミ: いや、これが「渋い」とか「マニアック」とかそういう次元じゃないのよ。「圧巻」とか「最高峰」とか、SNSでも「10年後も参照されるべき伝説の展示」って言われてるくらい、とんでもないものだったの!

サキ: え、そこまで!?仏画でしょ?
エミ: まずね、何が一番ヤバいかって、お客さんが明らかに日本人比率が少なすぎるのよ。中国系がかなり多くて、欧米人もめっちゃ多かったの。

サキ:宋元は中国だから中国人が多いのは分かるけど欧米人?北斎とかの浮世絵展じゃないのに。

エミ:そうなのよ。欧米人は英語だけじゃなくて何語か分からないんだけど、浮世絵好きっていうメジャーじゃなくて、ガチ勢だね。

サキ:日本人の私も宋元仏画って言われてもピンと来ないもん。

エミ:前提として、「宋・元時代」(だいたい日本の平安後期から鎌倉時代くらい)の絵画って、描かれた本場の中国には、戦乱とか色々あって、ほとんど残ってないの。

サキ: へぇ!そうなの?

エミ: そう。じゃあどこにあるかっていうと、ほぼ日本にしか残っていないのよ。

サキ: えっ、どういうこと!?

エミ: 当時の日本が、熱心にこれらを輸入して、大事に大事に、お寺とかで守り伝えてきたから。まさに「蒼海を越えて」日本に来た「ほとけたち」が、奇跡的にここに集結してるわけ。

サキ: うわー…なんかスケールのおっきい話だ。

エミ: でしょ!だから、中国語を話すお客さんたちは食い入るように超真剣。一緒にたぶん無理やり連れて来られた子供たちは飽きてつまらなそうだったけどね。

サキ: 中国の人たちにとっては、過去の消えた自国の歴史が目の前にあるような感覚なんだろうね。
…でもさ、正直、仏画って知識ないと難しくない?私、理系だし、エミちゃんに歴史教えてもらってるけど、どれも同じに見えちゃいそうで…。

エミ: 私も全部は分からないよ。前後期で170点も出るんだよ。一つひとつが中国で伝世したら国家一級文物になっちゃうようなお宝なわけだから、展覧会で一つでも二つでも、心や頭がなにか感じられば充分に入館料のお釣りが出るよ。

サキ: ふむふむ、どんなお宝があったの?

エミ: 最初の部屋で、中国系の人たちのあこがれの視線を集めていたのが、徽宗皇帝と伝わる国宝「秋景冬景山水図」(南宋時代 12世紀、京都・金地院)。

伝徽宗「秋景冬景山水図」Wikipediaより

サキ: 徽宗(きそう)皇帝?初めて聞いたけど。

エミ: 世界史の歴史でも、北宋を滅ぼした皇帝だから出てこないけど、めちゃくちゃ絵が上手なことで知られていて、「風流天子」つまり文人皇帝だったんだ。

サキ: へぇ!絵は描けるけど政治は…

エミ: おっと皇帝の悪口はそこまでよ(笑)。まぁ、「伝」とあるのは実際は徽宗ではないという意味なんだけど、北宋が事実上滅んだあとの南宋時代の宋の宮廷お抱えの絵師による「院体画」とされているの。春夏秋冬の4幅セットだったんだけど、夏景山水図は国宝(山梨・久遠寺)で東博に寄託されていて、東洋館で時々さりげなく展示されているんだけど、春景は存在不明なの。
茶の湯展(京都国立博物館)で見た国宝18点すべての感想
2022年秋の京博の「茶の湯」展のときの感想は「上手だけど、徽宗皇帝というネーミングが無ければ、雪舟のほうが好きという人も多い気がします。私は雪舟のほうが好きです。」って書いていたんだよ。
サキ: きつい評価(笑)だね。
エミ: 茶の湯展な国宝が18点もあったし、ほかにも茶の湯の名品がたくさんあったし、そのころは徽宗を含めて唐物(宋元の芸術品)のことあまり知らなかったから…
サキ: 今回はどうだったの?教えて教えて。
エミ: 茶道も山水画の経験値もあがったけど、やっぱり雪舟のほうが好きかな(笑)

雪舟の国宝「秋冬山水図」東京国立博物館蔵 (Wikipedia)

サキ: www。じゃあ、すごくよかったのを教えてよ(笑)

エミ: そうだね、なんとかしてサキちゃん京都へ連れて行かなくちゃなんだから。まず私が行った前期の目玉は、仁和寺の国宝「孔雀明王像」(11世紀)ね。北宋絵画の最高峰って言われていて、私は2023年の根津美術館の北宋書画精華画で初めて見たんだけど、色彩と緻密さ、立体感の表現が異次元レベルで、あれで私も宋元仏画に目覚めたんだと思う。

右側が孔雀明王像です

サキ: どんな絵かしら?あー!あの孔雀に乗ってるの!あれ、もとは中国の絵だったんだ。

エミ: そうなのよ。孔雀の羽の一枚一枚まで超緻密な描写が圧巻なの。ファンタジーなのにリアル。宋の時代は水墨画が有名だけど、彩色の豊かな絵もリアルを超えるリアリティーの優れた作品がたくさんあるんだ、といっても残っているのは日本だけなんだけどね。
サキ: これは海を渡って京都まで見に来る人がたくさんいるのも理解できるね

エミ: 宋の時代って、3大発明というのが教科書に載っているけど、覚えている?

サキ: 羅針盤、火薬、活版印刷だよね、たしか。

エミ: ほかにもいろいろな技術革新があって、中でも墨がガラケーからスマホに変わったくらい大きな進化があったの。

当時、中国は宋の時代にあり、日宋貿易が盛んに行なわれ、中国ではすでに原料である「すす=煤」を植物油を燃やして採っており、この墨を油煙墨(ゆえんぼく)と言いますが、唐墨(からすみ)と称して我国では貴族達が珍重しておりました。我国の墨と言えば、まだ松を燃やして「すす」を採り、これを松煙墨と言いますが、墨をつくるという古来ながらの製法で、墨の色は圧倒的に油煙墨が黒く、品質的にも松煙墨にくらべて格段の差がありました。(奈良製墨組合のHPより)

サキ: へえ。墨が油煙墨っていうのになるとどう違うのか?

エミ: 薄ーく塗れるんだよ。白と黒のはっきりとした2色だけでなく、その間に無限ともいえるグラデーションを出せるようになったんだよ。

サキ: そっか。色を使わなくても、表現の幅が広がったんだね。

エミ: むしろあえて色を使わないで墨だけで、どこまで空気や奥行きや夢の世界を描けるかにチャレンジしていったんだよ。

サキ: なるほどなるほど。色を塗ることはできたけど、あえて使わないのか、それは色をふんだんに使った「孔雀明王像」みたいなのが存在しているからこそ、説得力のある話になるね。それにしても、エミちゃん早口すぎ、興奮しすぎ(笑)

エミ: 興奮するよ!…でね、ここからが本題。私が行ったのは、あくまで「前期」なのよ。

サキ: …と、いうと?

エミ: 10月21日から「後期」が始まってて、展示作品が、かなりガラッと入れ替わってるの!

サキ: えっ、そんなに!?

エミ: そう!SNSでも「前後期とも良くぞこんなに並べたなぁ」って驚かれてるくらい、どっちも本気なんだって。前期の「孔雀明王像」や「秋景冬景山水図」はもう見られないんだけど、後期は後期でまた別のとんでもない国宝級が出てくるんだよ。むしろ後期のほうがヤバいと思う。

サキ: うわー、悩ましい…。

​エミ: …というわけで、サキちゃん。私、この「伝説」をもう一回、今度はサキちゃんと一緒に体験したいんだけど。後期、一緒に京都行かない?

​サキ: えー!そんなにプレゼンされたら、気になるに決まってるじゃん!

​エミ: 京博デビューにはこれ以上ないチャンスだって!SNSでも「ちょっとでも気になっている人、行かないと後悔しますぞ」って断言されてるし(笑)。

サキ: わかった!行く!京博デビュー、しちゃいます! あと、どうせなら正倉院展デビューもしたいんだけど。いま東京で正倉院THE SHOWっていうのをやっているよね。ちょっと正倉院展気になって。
エミ: よし決まり!京博と奈良博を組み合わせた最強の日程調整しよう!いやー、楽しみ楽しみ!

【おまけトーク】宋元仏画展 プレイリスト会議

エミ: …さてと、サキちゃん!京都・奈良遠征、楽しみだね!
サキ: …で、もちろん、今回もやるよね?恒例のやつ。

エミ: もっちろん!「宋元仏画展・プレイリスト会議」始めますか!いやー、今回は濃厚でボリューミーだったから難しかったけど、めちゃくちゃ組みたい曲が浮かんだよ。

サキ: どうぞ!
エミ: まず1曲目はね、novelsの『ミッシングリンク』。まさに「失われた環(ミッシングリンク)」だよね。本国の中国では失われて、日本にだけ奇跡的に残ったっていう、この展覧会そのもののテーマを表してるかなって。


サキ: うわ、1曲目から鋭い…!アニメ「タイガー&バニー」の主題歌だし、私たち二人のバディーにもぴったりだね。
じゃあ私はまだ見てないけどエミちゃんから聞いた印象で、その「失われた」背景を汲んで、小沢健二の『戦場のボーイズライフ』を2曲目に。

エミ: お、オザケン!意外な選曲。

サキ: でしょ?でも、想像しちゃったんだよね。中国の戦乱の中で、この美しい仏画を「なんとか守りたい」って、海の向こうの日本へ運んだ、古(いにしえ)の人の思いを。まさに戦場の中の祈りというか…。

エミ: あー…なるほど、さすがサキちゃん。たしかに。「美術品」である前に、誰かの「守りたいもの」だったんだもんね。…じゃあ3曲目。その「守られてきたもの」のパワーを表現したい。サカナクションで『怪獣』。

サキ: 『怪獣』!?あっ、アニメ『チ。』の主題歌かぁ、なるほどなるほど。

エミ: うん。仏画って、ただ美しいだけじゃなくて、信仰の対象としての「計り知れない何か」のオーラが凄くない?美しいけど、ちょっと怖いような。そういう人智を超えた感じが、サカナクションの音と合う気がする。

サキ: わかる!じゃあ4曲目、私はシェリル・ノームで『ノーザンクロス』。

エミ: おお、やった!マクロスF!

サキ: **「旅の始まりはもう思い出せない」**っていう歌詞が、まさに「蒼海を越えたほとけたち」に重なって。中国大陸から日本へ、何百年も前に渡ってきて…もう旅の始まりなんて、誰も覚えてないほどの時間を超えて、今ここにいるんだなって。

エミ: うわ、エモい…。その流れ、最高。じゃあ5曲目、BUMP OF CHICKENで『シリウス』。これも歌詞から。

サキ: どこどこ?

エミ: 「絶望の最果て 希望の底」。戦乱っていう「絶望」の中で、海を渡って「希望」として日本に運ばれてきた。そして、今もこうして光を放ち続けてる。まさに『シリウス』みたいな存在だなって。

サキ: うう…泣かせにくるじゃん…。じゃあ、その「時間」のスケールをもっと壮大に!6曲目、『創世のアクエリオン』!

エミ: えっ、ここで来た!?

サキ: 「一万年と二千年前から愛してる」だよ!さすがに一万年じゃないけど(笑)、千年近い時間を超えて、こうして守られ愛されてきたっていう、そのとんでもない時間のスケール感をここで入れたい!

エミ: あはは!なるほど!確かにスケール感は合う(笑)。
じゃあ7曲目、Orangestarの『surges』。仏画が日本に渡ってきて、その後の日本の美術に与えた影響って計り知れないじゃない?まさに文化の大きな「波(surges)」を起こしたわけだから。

サキ: いいね!じゃあ8曲目、私は羊文学の『more than words』。

エミ: 羊文学!

サキ: うん。仏画を前にした時の、「言葉にならない(more than words)」感動とか、祈りの気持ちって、まさにこれだかななって。

エミ: たしかに…。じゃあ9曲目!RADWIMPSで『前前前世』。

サキ: え、また意外な!いや、むしろピッタリかもしれない。

エミ: 「やっと眼を覚ましたかい」って、仏画に言われてる気分(笑)。何百年も前から、私たちがこうして出会うのを待っててくれたのかなって。運命的な出会いだよ。

サキ: じゃあ、RADWIMPS続きになっちゃうけど、私10曲目に『mountain top』入れたい。

エミ: お、映画『空海』のテーマだね、仏教系に外せない曲だよね。サキちゃんはどういうイメージでこれを選んだの?

サキ: 仏画って、やっぱり孤高というか、美術史の「頂(mountain top)」みたいな存在感があるじゃない?その揺るがない強さと美しさを表現したくて。

エミ: わかる!じゃあ、締めは私から。11曲目、ヨルシカで『アポリア』。

サキ: あ、ヨルシカ!これも『チ。』のエンディングテーマだったよね。…『アポリア』って、「難問」とか「行き詰まり」って意味だよね?

エミ: そう。この展覧会って、ただ「キレイだね」だけじゃなくて、「なぜこれらは中国で失われ、日本にだけ残ったのか?」「信仰とは?美とは?」っていう、いろんな「問い」を投げかけてくる気がして。その「解けない問い」を抱えて博物館を出る感じが、この曲にぴったりかなって。

サキ: うわー…完璧な締め。今回もすごいプレイリストができたね…。

エミ: うん!京博行く前に聴き込んで、テンション上げていこう!

エミとサキの「宋元仏画展」プレイリスト
* ミッシングリンク / novels
* 戦場のボーイズライフ / 小沢健二
* 怪獣 / サカナクション
* ノーザンクロス / シェリル・ノーム starring May’n
* シリウス / BUMP OF CHICKEN
* 創世のアクエリオン / AKINO
* surges / Orangestar
* more than words / 羊文学
* 前前前世 / RADWIMPS
* mountain top / RADWIMPS
* アポリア / ヨルシカ

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