胸くそ悪いがよく出来た悪党小説 吉村萬壱「ハリガネムシ」第129回芥川賞

 21世紀の芥川賞ぜんぶ読むは8作目になります。まだ、あと30回以上あります(現時点での最新が162回)。
 2003年7月(2003年上期)、第129回芥川賞に選ばれた、吉村萬壱さんの「ハリガネムシ」です。
 
 吉村さんは、なんと主人公と同じく高校に勤めていたことのある先生で、受賞当時は養護学校中学部の教諭だった。芥川賞はノンフィクションながら、主人公が作者とある程度同一視される私小説の面も多いので、これだけ暴力とグロテスクな性にまみれた主人公であることは驚かされる。主人公が同僚で年上の熟女教師にいやらしい妄想を抱いているシーンなどは生々しく、受賞してから職場では相当な針のむしろであったことだろう。

 受賞作の内容は、東京で25歳の高校の倫理教師をつとめる慎一が、23歳のソープランド嬢サチコと同棲するようになる。サチコは幼い息子2人を四国の施設に預けており、夏休みに車で2人で行く。慎一は内に秘めた暴力性(カマキリに寄生するハリガネムシのように)を出すようになり、さまざまなえげつない暴力をサチコにふるい、それに性的な快感を味わうようになる。2人は暴力に依存しながらどんどんと墜ちていく。

 短編小説ながら、東京と四国という距離を移動する必然性、ハリガネムシのようにわかりやすい比喩と伏線(そしてちゃんと回収、とくに菩薩がよかった)と、ストーリーの山も谷も、小説として非常にうまく出来ている。ただ、スプラッター映画のようなえぐい描写は、非常に非常に胸くそ悪い。選考委員の人たちもそう思ったようで、「嫌いだが認めざるをえない」というような評が多かった。2年前の125回芥川賞の玄侑宗久『中陰の花』以降は、3回続けて、極めて個人的かつ平凡な人たちの小さな日常を技巧的に上手に書いたものばかりだったため、この作品のようなパンチのある受賞作が選ばれるタイミングでもあったのだろう。
 私自身も好きかと言われたら嫌いと言うだろうが、小説としてはある程度高い評価をせざるをえない。胸くそ悪いが。

 星4つ

まとめると

テーマ 暴力と性
歴史的テーマ なし
地域 東京 四国

次は、最年少ダブル受賞となった金原ひとみさん「蛇にピアス」と綿矢りささん「蹴りたい背中」です。

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