2004年1月(2003年下期)、第130回芥川賞には、いずれも史上最年少となるダブル受賞で、大きな話題になりました。
いずれも女性で受賞時20歳の金原ひとみさんの「蛇にピアス」と、19歳の綿矢りさ「蹴りたい背中」です。
金原さんは小四から不登校で高校中退、綿矢さんは早稲田大学の女子大生と、その経歴と見た目の差も注目されました。(しかし金原さんのお父さんは文学研究者で、作品の指導もしており、実は「サラブレッド」であった)
物語はそれぞれ1行で言うと、
蛇にピアスは「アンダーグラウンドな世界で殺人も絡む男女の恋愛」
蹴りたい背中は「友達の少ない高校生の男女の恋愛」
と、いずれも恋愛がテーマ。
どちらが面白かったと言うと、私には圧倒的に「蛇にピアス」でした。「純文学」苦手なのに、この21世紀の芥川賞ぜんぶ読むをはじめてみて、ストーリーがばしっと面白いと言えるのは、これが初めてでした。純文学というよりも、江戸川乱歩のダークな短編小説のような味わいで、エンターテイメントとしての殺人、謎、伏線、キャラ立ちなどが、すべてそろっているのです。SM的な描写も、前回受賞作の吉村萬壱さんの「ハリガネムシ」のグロテスクな描写に比べると、さっぱりしています。
一方の「蹴りたい背中」は、良くも悪くも純文学。細かい観察と感性のある表現によって、登場人物の微妙な心理を描写する。その描写力には驚かされましたが、「蹴りたい背中」がまさか「にな川」君の背中ではないだろうなと序盤に思いながら読んで、まさにそのままだったがっかり感といったらありませんでした。
アンダーグラウンドがサブカルチャー オタクはメインカルチャーに
両作品への印象は、2004年に比べて15年以上が経ち、社会が大きく「個性を認める」ようになったことも大きいと思います。
「蛇にピアス」で、一般人の知らないアンダーグラウンドな世界として描かれているパンクやクラブ、ピアス、入れ墨(タトゥー)は、メジャーな文化とはいえないものの、それほど奇異で拒絶される世界ではなくなっています。一方、クラスになじめない人やオタク趣味に一途な人は、SNSなどを利用することで年齢や地域を離れた同志を簡単に見つけることができるようになったため、同調圧力をそれほど感じずに、我が道を比較的快適に歩むとが可能な社会になっています。
「アンダーグラウンド」が「サブカルチャー」になり、「オタク」が「メインカルチャーの一流派」となったことで、両者が持つテーマの異様さが現代の読者にとっては薄められた結果、エンタメ性の高い構成の「蛇にピアス」は単純に「おもしろく」。エンタメ性の低い「蹴りたい背中」は「つまらない」と感じたのだとも思います。
評価は蛇にピアスが星5つ
蹴りたい背中は星2つ
です。
まとめると
テーマ 殺人 恋愛
歴史的テーマ なし
地域 東京
まとめると
テーマ 恋愛 高校生活
歴史的テーマ なし
地域 地方都市
蛇にピアスは映画化(アマゾンプライムなら無料で見られます)
蹴りたい背中
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