ミッドウェイ海戦で釜ゆで?!戸高一成、大木毅著『帝国軍人』(角川新書)

戸高一成、大木毅著『帝国軍人』(角川新書)の書評です。

あらゆる歴史には、事実はあるが、「たった一つの真実」というものは存在しない。
1948年生まれの戸高一成さん(大和ミュージアム館長)、1961年生まれの大木毅さん(『独ソ戦』著者)が、戦争体験者それも将官を中心に聞いた話を、振り返る対談をまとめた1冊。

今年の夏も色々な報道で、戦争体験者の経験談が紹介されていた。戦後75年たっているので、体験者はだいたい子どものころの記憶がほとんどだ。10歳以下の記憶は果たして、本当の「記憶」なのか。戦後になってさまざまな情報から作りあげられた記憶ではないか。90歳をこえる超高齢者が今話すことは、本当に当時の記憶といえるのか。

また、当時の5歳児や、兵士であっても10代の末端の兵士たちは、ほとんど戦争の犠牲者といっていいが、戦争を立案し、決断し、実行した軍の幹部や政治家は、いまはほぼみな亡くなっているのが現実だ。後者の声を取り上げずに、戦争の犠牲者の声だけで戦争を振り返ることが果たして正しいのか。

そこの引っかかりを解消してくれるのが、本書だ。

戸高 時どきテレビで一〇〇歳前後のおじいさん、おばあさんを捕まえて、当時その場にいた人だからといって話をさせようとします。私は「もう無理だから、やめた方が良いですよ」とよく言います。無理やり話をさせて、変なことを言わせてもかえって良くありません。実際の当事者からヒアリングする時代は終わったと思ったほうがいいのです
(248ページ)

隅から隅まで興味深い話がたくさん載っているが、とくにミッドウェー海戦での、日本軍による米軍捕虜の虐殺は驚いた。

具体的には、機動艦隊の旗艦空母赤城がなぜ戦闘中に一度機関停止したかということの謎解きである。
戦闘詳報は、戦闘後すぐに書かれる記録で一次資料といえる。ところが、戦闘詳報のメイキングは当たり前で、100%信用できないのだという。

戸高 戦闘詳報とは、戦闘後に書く報告書ですが、ごまかせる部分とごまかせない部分がある。例えば、味方の艦隊を攻撃に来た飛行機をみな目の前で撃墜したならば、捕虜をたくさん拾っているはずです。情報を取るためにも捕虜を拾います。ミッドウェイの戦闘詳報には、一切捕虜の記録がありません。つまり全員殺している。海軍としては非常にまずい。(略)
大木 横山さんは、捕虜を殺してしまった話をミッドウェイの特集でやろうとしていました。自費出版の書籍からその事実を辿ったのですが、本当にひどい殺し方をしています。

大木 駆逐艦で拾った捕虜を、フネのボイラーに入れて茹で殺した。ところが、横山さんはその企画を断念しました。それは、その回想録を書いた下士官を横山さんが訪ねたら、「いや~、あの時はええもん見せてもらった」と笑っていたからだ、と。まったく反省がなかった。

戸高 (略)捕虜の足に重りを付け、そのまま海に放り込んだりもしています。司令部が尋問するから、その駆逐艦が拾った捕虜をよこせというので、空母「赤城」を戦闘中に止める。そうして駆逐艦から捕虜を取っていますが、その記録はありません。ところが、機関科の戦闘詳報が別にあり、そこに「何時何分、機関停止」と書いている。戦闘の真っ最中に船を止めている。でも、なぜ止めたかは書いていない。だから、澤地さんは「捕虜を移すために止めたんだ」「それ以外に考えられない」と、一つひとつ突っ込むわけです。(略)
(131~132ページ)
(*横山=雑誌『歴史と人物」の編集長横山恵一)
(*澤地=ノンフィクション作家の澤地久江)

また、偵察機利根の発進の遅れについて、

戸高 (略)ミッドウェイでアメリカの空母を探す偵察機・「利根」四号機が、カタパルトの故障により発進が遅れます。それにより、米艦隊の発見が遅れる。なぜそのようなことになったのか調べたのは、宮崎勇(海兵五八期)さんでした。軍令部の参謀だった宮崎さんは、戦後も調べ続けていました。その調査によると、夕方に甲板整列といって、兵隊のお尻をこん棒でぶん殴るのが激しすぎたため、みんな半分ストライキ状態だったそうです。巡洋艦には普通、カタパルトは二個あります。故障しても、すぐに代わりを出せるということです。ところが、本来なら代わりを出さないといけないほうがストライキを起こしていたので動かなかった。(略)
(138ページ)

と、すごいことが書かれている。
現代の自衛隊も戦闘詳報の改ざんが問題になったが、古今東西、軍隊ではこうした情報操作が多くあるはずだ。いや、軍隊だけでなく、あらゆる組織にもあるに違いない。
手軽に読める対談型の新書だが、実に学びの多い本だ。

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