国宝展後期突入!「国宝 東京国立博物館のすべて」3期目で見たすべての国宝の感想戦

全4期の東博国宝展の3期目(後期前半)に行ってきました。当初は3期目に行く予定はなかった(89件コンプリートには1・2・4期に行けば良い)のですが、ご存じのとおり、人気沸騰で、4期のチケットが取れなくなる危機感から、とりあえず3期の追加分は見ておこうと行ってきた次第です。(4期も無事予約できました)。

つまり、3回目です。3期目から後期なので、ある程度まとまった数が展示替えされていましたが、とは言うものの3回目ですから、前回までさーっと通り過ぎていた、国宝以外が並ぶ第2部「東京国立博物館の150年」も余裕を持って見ることができました。

3期目から登場した国宝(場面替えなどをのぞく)は、23件
(1)千手観音像(2)扇面法華経冊子(3)地獄草紙(4)餓鬼草紙(5)竹斎読書図(6)破墨山水図(7)洛中洛外図屏風(8)楼閣山水図屏風(9)竹生島経(10)白氏詩巻(11)秋萩帖(12)三宝絵詞(13)延喜式(14)瀟湘臥遊図巻(15)寒山捨得図(16)世説新書(17)碣石調幽蘭(18)流れ圜悟(19)破れ虚堂(20)無隠元晦あて法語(21)細字法華経(22)片輪車蒔絵螺鈿手箱(23)尾形光琳のハ橋蒔絵螺鈿硯箱

3回かよって、89の国宝のうち87を見ることができました。残りは普賢菩薩像と観楓図屏風です。

また、第二部でも多少入れ替わりがあり、奈良時代の直刀(水龍剣)、酒井抱一「夏秋草図屏風」(前期の尾形光琳の「風神雷神図屏風」の裏側)などがありました。
なお、4期目は、普賢菩薩と観楓図屏風の2件が出ます。

1回目の国宝展の全国宝(記憶がないものもありますが)の感想↓

「国宝 東京国立博物館のすべて」に展示されているすべての国宝について感想【その1】

2回目の国宝展の全国宝(記憶がないものはありませんでした)の感想↓

2期!「国宝 東京国立博物館のすべて」2期目で見たすべての国宝の感想戦

コンテンツ

国宝のない第2部も面白かった

水龍剣!Colbaseより

第2部の国宝でない、奈良時代の重文「直刀 無銘(号 水龍剣)」がやばかったです。もともと正倉院宝物で聖武天皇が使っていたとかいないとか、さすがに拵は明治時代ですけど、1300年間、この輝きを保ってきたとは、正倉院すごい。トーハクの未来の国宝はゴジラでなくコレでしょ!

Colbaseより

また、第2部では、金吾こと小早川秀秋くんの陣羽織、前期では外側の勇ましい鎌だけ見てましたが、内側には長命を願って「永」と刺繍していたのですね。切ないです。

後期前半(期間3 11/15~27)

さて、第1部に戻って、国宝の感想を、展示順にしていきます。

絵画 10件

1 狩野永徳「檜図屏風」安土桃山時代 天正18年(1590) (11/1-27)

会場に入って目の前には、1期目だけの等伯の松林図屏風に代わり、2期目から引き続き、狩野永徳「檜図屏風」が鎮座しています。前回は、静寂さが極まりない等伯の松林図屏風と対照的でまるでジャングルの熱帯のような生命力に満ちあふれている、と感じました。が、今回は、その左にある次ぎの又兵衛の洛中洛外図(舟木本)の数千人の生命が結集した人間のパワーの前には、ちょっと力負けという感じでした。2期と3期という変則的な展示期間で、4期は狩野秀頼「観楓図屏風」にチェンジすると思われます。

檜図屏風 Colbaseより

 

2 岩佐又兵衛 洛中洛外図屏風(舟木本) 江戸時代 11/15ー12/11

本館1Fの「未来の博物館」での予習を強く推奨!2000人以上の人間が描かれているので、見るポイントをある程度、決めておかないと、探すのが大変です。みなさん、冒頭で元気満タンなので、一生懸命に細かいパーツ、パーツを見ようとする人たちで大渋滞していました。
閉館間際の2周目では、空いていたので、2周目にして、ほぼ「未来の博物館」で紹介された(3シリーズ全部みて30分くらい)部分を見ることができたと思います。なにより、お行儀のよくない人たちを見つけたときの面白さったら。これだけで2時間くらいは見ていられるくらい面白かったです。

3 池大雅 楼閣山水図屏風 江戸時代 11/15ー12/11

池大雅、うーん、まったくその良さが理解できませんでした。「へたうま」でなく、「へた」にしか見えない。もちろんきっと下手ってだけではないのでしょうけど、思い浮かんだのは、漫☆画太郎です。漫☆画太郎さんは、「へたうま」の「うま」を付けたくなく、「へた」ってだけ思う人、いませんかね?(はーい、わたしです)(もちろん実際には、究極的なうまさを持っているんでしょうけど)

同じ場所に前期に展示されていた、久隅守景の「納涼図屏風」は、2回目のときに以下のように書きました。
前回は、「押し流されるように、このヘタウマな絵に後ろ髪をひかれながら、通過しました。ちゃんとゆっくり見たい作品です」と書きました。今回はゆっくり見ることができました。へたうまと書きましたが、よーく見ると、人物などの細かいところは大変に細かい筆さばきで技量が高く、「へた」にみえるところも、実はあえて「抜き」をしているという、絵画技術の高さを感じることができました。

と、1回目では「へたうま」の「へた」寄りの感想だったのが、2回目では「うま」いところを感じられたので、池大雅も次回見たときには感想が変わるかもしれません。手前の洛中洛外図で大渋滞した人の流れが一気に流動的になるので、混んでいませんので、じっくり見ることができます。

4 十六羅漢像 平安時代 8幅を4幅ずつ前期後期に展示

1室目の反対側のサイド。前期は1、2、5、8だったのが、12、13、14、15に変わりました。番号が若いほうがよく展示(もちろんお寺で)された機会が多かったのか、あきらかに前期の4つよりも、発色の残り方が良かったです。でも、モチーフは、同じくおっさんたちなので、うん、まぁ、偉いおじさんたちという印象です。

5 千手観音像 平安時代 11/15ー12/11

このコーナーは2つだけで、かなりスペースが空いています。4期目のみの普賢菩薩が横に置かれるのでしょう。千手観音は、たくさんの手を単眼鏡で見ました。細かくて、すごい技術だと思いました。手には、なんか眼(邪眼的な?)が描かれているのですね。

6 地獄草紙 平安時代 11/15-12/11

7 餓鬼草紙 平安時代 11/15-12/11

餓鬼草紙 Colbaseより

2室目のコーナーでは、前期は長い巻物ひとつを全部広げていましたが、後期は3点展示。
「地獄草子」→「餓鬼草子」と遺体や糞尿垂れ流しの世界から一転、清らかなことこの上ない「扇面法華経冊子」が登場するという、超ドラマチックな展開で、超面白かったです。このコーナーには、早くも椅子があったので、気あたりしてノックダウンされて暫しご休憩って感じでした。地獄草紙は、ひらがなの文章と一緒なので、誰かに「地獄とは?」と教育(刷り込み)するための教科書でしょうね。餓鬼草紙は、文章がなく、なんのために、描かれたのかよく分かりませんが、いずれも三十三間堂(蓮華王院)にあったものだそうです。うーん、なんのために?

8 扇面法華経冊子 平安時代 11/15-12/11

Colbaseより

地獄&餓鬼のコンボのあとだけに、これほど清浄な絵画は見たことがないくらいってくらい、清らかでした。「ハレとケ」を一気に目の当たりにできる、この並びは最高の体験です。

9 伝 周文 竹斎読書図 室町時代 11/15-12/11

10 雪舟等揚 破墨山水図 室町時代 11/15-12/11

地獄から極楽のジェットコースターコーナーから、柱を挟んで、同じ面にある、雪舟とその師匠の周文の水墨画です。前期でも感動しましたが、やっぱり雪舟はすごいなということ。周文は引き立て役でした。雪舟は、3回目なので、山水画への没入方法も慣れたものです。より没入するには、事前に、東洋館下のVRシアター(別料金)をおすすめします。

書跡 7件

「書跡」のコーナーの展示品は、2件(円珍関係文書と古今和歌集元永本)以外が入れ替わりました。

11 竹生島経 11/15-12/11

12 円珍関係文書 通期

円珍関係文書は一括指定の国宝で、前期と後期ではまったく異なるものが展示されています。後期は、円珍自筆のものも出ているのですが、やっぱり、上手な字ではありませんでした。

13 白氏詩巻 11/15-12/11

14 秋萩帖 11/15-12/11

15 古今和歌集 元永本 通期(場面替えあり)

前期から場面替え。前期に比べて、さらに文書情報よりも料紙(紙)の美しさで勝負ということがわかる場面です。右は、紙ばかり目立って、肝心の文字はほとんど読めないくらい埋没。

16 三宝絵詞 11/15-12/11

17 延喜式 11/15-12/11

 

東洋書跡 5件

東洋書跡です。前期とすべて入れ替えです。

18 世説新書 11/15-12/11

19 碣石調幽蘭 11/15-12/11

20 流れ圜悟 11/15-12/11

21 破れ虚堂 11/15-12/11

22 無隠元晦あて法語 11/15-12/11

 

東洋絵画 2件

東洋絵画の2件とも前期から入れ替え。

23 李氏 瀟湘臥遊図巻 11/15-12/11

イロンナ意味でスゴかったのが東洋絵画の国宝「瀟湘臥遊図巻」でした。霧がかかっている絵がまるでホントに霧がかかってるみたいで視点がトコロドコロ合わないって思ったら、観客のミナサンがオデコをガラスケースのアチコチにぶつけていた痕跡でした(;´∀`)

定期的に係の方が拭いてるはずですけど、あの絵のガラスケースだけ異常でした それほど惹き込まれてしまう素晴らしい絵でした。オデコの跡よりも乾隆帝のハンコが邪魔です。

Colbaseより

24 寒山捨得図 11/15-12/11

国宝「紙本墨画禅機図断簡」因陀羅筆 東京国立博物館蔵 ColBaseより

法隆寺献納宝物 10件

東博の法隆寺献納宝物は国宝11件。その半分の5件は法隆寺宝物館に行けば、だいたいいつも見られます。しかし、絵画、文書、工芸は、なかなか見る機会が少ないので、本展では、とくにそれらに注目して見るといいと思います。前期とは1件が入れ替わり。法隆寺献物帳がOUT、細字法華経がIN。

25 秦致貞筆 聖徳太子絵伝 平安時代 2面 通期(前期、後期で展示替え)

前期に7・8面、後期に9・10面を展示。

26 細字法華経 中国・唐時代 11/15-12/11

則天武后の時代の694年で、年号が「長寿三年」。「年」は彼女の時代のみ使われた則天文字でした。初めて見たので感動しました。

Wikipediaより

27 木画経箱 奈良時代

すぐ背面にある江戸時代の本阿弥光悦の漆工の国宝と比較できて面白いと思ったのが、奈良時代の木工「木画経箱」です。紫檀(したん)、黒檀(こくたん)、沈香(じんこう)、象牙などの板をモザイク状に組み合わせたものです。だいぶパーツが取れてしまっていますが、新品の頃の美しさを想像すると、楽しかったです。

3回目もチラ見。

Colbaseより

28 竹厨子 奈良時代

竹で作った箱です。1000年以上前の竹製品が残っていることに驚き、感動します。いわゆる「民藝」的な素朴さはまったくなく、洗練された技術とデザインです。

こちらも3回目なのでチラ見。

Colbaseより

29 七弦琴 中国・唐時代

Colbaseより

正倉院宝物もですが、奈良って世界史的に見ても、本当にすごいものを伝えてきていますね。そうした感動を味わいました。展示ケースの端っこに押しやられていましたが。こちらも3回目なのでチラ見。

Colbaseの説明より

中国・唐時代、玄宗皇帝が在位していた開元12年(724)に、四川省成都市に近い九隴県(きゅうろうけん)という場所で作られたことが墨で書かれています。製作された年と場所が明らかな琴としては世界最古の作例であり、東アジアの音楽史上においても極めて貴重な作品です。

30 灌頂幡 飛鳥時代

金属製の旗「灌頂幡」。下のColbaseの画像のように、つなぐと5メートル以上の長さになるものです。その1パーツしか本展では展示されていません。ですので、つないだ状態でぶらさがっている復元とパーツの本物がある、法隆寺宝物館であらためて見たほうが良いでしょう。

これも3回目かつ法隆寺宝物館で何度か見ているのでチラ見でしたが、今回の国宝カードはこれでした。

Colbaseより

31 竜首水瓶 飛鳥時代

Colbaseより

ペルシャ系の遊牧民が持つ水瓶。中国を含む東アジアでは、この水瓶が「シルクロード的なエキゾチック」なデザインとしてある種共通認識があり、これもペルシャからの輸入品ではなく、日本で作られたとされています。法隆寺宝物館よりもライトが明るく設定されていて、模様の線刻をよく見ることができました。

3回目なのでチラ見。

32 海磯鏡 奈良時代

海磯鏡2面のうち1面が展示。残りの1面は法隆寺宝物館で展示継続中。3回目はチラ見。

Colbaseより

33 墨台、水滴、匙 中国・唐時代または奈良時代

聖徳太子愛蔵の文房具として伝わってきた3点セット。ふだんは、法隆寺宝物館でもほぼ常設。3回目はチラ見。

水滴 Colbaseより

34 鵲尾形柄香炉 朝鮮・三国時代または飛鳥時代

真鍮製の香炉。これもふだんは法隆寺宝物館でほぼ常設。同じ形の香炉もたくさんあるので、まぎれてしまいます。記述を読まないと、宝物館では国宝とは気づかない人も多いでしょうね。

Colbaseより

以上10件が法隆寺献納宝物です。法隆寺献納宝物は、ふだん法隆寺宝物館で見ることができるものも多いので、今展では、メリハリをつけて、鑑賞するのがよろしいかと。

漆工 2件

トーハクの漆工の国宝は4件。2件ずつ前期・後期で展示されます。後期の2件は、10月23日まで都内の三井記念美術館で開催されている「大蒔絵展」で展示されていましたね。

トーハク研究員のBlogを予習してたので波の表現に集中することがデキました。「聖徳太子絵伝」の海の彼方の波と「片輪車螺鈿手箱」のレモンティの彼方に広がる浄土世界、そして光琳の「八橋蒔絵螺鈿硯箱」はそれを内包したこと(蓋の底に波が描かれる)を結びつけられました。

 

大蒔絵展(三井記念美術館)の国宝7件すべてを見た感想

 

35 片輪車螺鈿手箱 平安時代 11/15-12/11

別名「レモンティー」。レモン(片輪車)は螺鈿の厚みが異なっていて、厚い螺鈿の深みのあるキラキラはたまりませんでした。

36 尾形光琳 八橋螺鈿蒔絵硯箱 江戸時代 11/15-12/11

前期の本阿弥光悦のドヤ顔が見える硯箱に続いて、尾形光琳のドヤ顔が見える、見事な琳派の硯箱です。実は、ふたをあけて(さらに上段を外すと)底面には、上のレモンティーから続く、伝統的なデザイン「波」があります。この波を表に出さずに内包化しているのが、平安~江戸の日本文化のとぎれない糸であり、それを見比べることで気づける、ありがたい展示構成です。

考古 6件

ここからは前期と同じです。考古コーナーです。6件すべてが通期展示です。3回目なのですべてチラ見。

37 扁平鈕式銅鐸 弥生時代

東博の国宝の中では最古の国宝。讃岐の国(香川県)で出土したと伝わる銅鐸で、狩りをする「棒人間」や高床式住居などが描かれています。こちらの国宝、かなりの人気を集めていましたが、直前まで同じ平成館の「日本の考古」で、単独のケースに入ってずっと展示されていました。本展後も、定位置に戻ると思います。じっくり見るのはその時でも良いかもしれませんね。考古はみんなそうですが。

Colbaseより

38 東大寺山古墳出土品

東大寺山古墳出土品(一括指定)のうち「環頭大刀」など2点が展示されています。

Colbaseより

Colbaseの説明

日本最古の出土銘文刀剣としてよく知られ、刀身部は中国製で環頭部は日本製です。一部を欠失しますが、刀身背部に金象嵌(きんぞうがん)で24文字が刻まれていたとみられます。「中平(ちゅうへい)」(184~189)は後漢・霊帝時代の年号で、後漢書東夷伝に倭国大乱があったとされる時期です。

39 江田船山古墳出土品 古墳時代

熊本県の江田船山古墳からの出土品が一括指定されています。そのうち3点が展示。ただ、江田船山古墳出土品の一番の目玉は、平成館の「日本の考古」で常設展示(コーナー化)されている魚や鳥、文字が金の象嵌で描かれた刀ですので、ぜひ、特別展の前後に日本の考古で見てみてください。

Colbaseより

40 文祢麻呂墓出土品 飛鳥時代

文祢麻呂は、飛鳥時代の壬申の乱で、大海人皇子について活躍した渡来系の氏族。その墓から出土したものが一括指定、そのうち4点が展示。これも、「日本の考古」の骨壺コーナーで、年間を通じて、休み休み時々、出展されています。

瑠璃骨壺 Colbaseより

41 興福寺鎮壇具 奈良時代および中国・唐時代

奈良の興福寺の中金堂をたてるときに須弥壇の下に儀式として埋納されたものを一括国宝指定。いろいろなものがあるのですが、砂金は「最小サイズの国宝」とされています。興福寺鎮壇具は、本館2階の国宝室の手前で、ときどき常設展示されています。 砂金は見るのが初めてだったので、うれしかったです。砂金の粒ってけっこう大きいのだなぁという感想。

Colbaseより

42 埴輪 挂甲の武人 古墳時代

「埴輪 挂甲(けいこう)の武人」は、歴史教科書で見たTHE埴輪。ここ数年、修理のために展示されておらず、今展が修理後初のお目見えです。埴輪は、それこそ「日本の考古」コーナーで、大きくて立派なものから、おもしろいデザインのものから、大量に展示されています。数ある埴輪の中で、なぜこれが国宝なのか。それは現物を見ても、その差はわかりませんでしたが、群馬県太田市の古墳からの出土品を選んだというのは、面白いなと思いました。(畿内から選んじゃいそうなものなのに、関東からというのがなかなか乙)

2回目は、なぜこれが国宝?という意識でよく見ました。技術的にはほかの埴輪と違いはありませんが、造形として、顔とかぶり物の立体感や動きのある躍動感などが、たしかに平成館考古コーナーの埴輪に比べると、頭ひとつ(その程度)抜けているところもあるかなと感じました。

現代の感覚でのアート的なセンスで秀でいるかというと、むしろ第二部に展示のNo.139の重要文化財「遮光器土偶」のほうが圧倒的な(岡本太郎的)造形美とアイデアに満ちあふれていると感じました。

Colbaseより

ここまでが西側の第一会場です。次は1回、会場を出て、グッズショップを通り、第二会場になります。第二会場には、国宝の残り、「国宝刀剣の間」と名付けられたエリアに、国宝刀剣19振が展示替えなしで展示されています。

 

刀剣 19件

東博の国宝89件を、8つに分類した中で、最も数が多いのが19件の刀剣です。「国宝刀剣の間」として19振りを展示替えなしで一挙に見せています。

1回目の前回は、「とりあえず有名な刀剣乱舞の6振+入り口にあった童子切安綱を中心に、見ました。正直、あまり覚えていないです」と書きましたが、今回は19振をすべて簡単な感想をつけていきます。

なお、刀剣乱舞に登場するのは、「トーハク組」と呼ばれる9振りです。「三日月宗近」、「厚藤四郎」、「亀甲貞宗」、「大包平」、「小竜景光」、「大般若長光」、「獅子王」、「鳴狐」、「毛利藤四郎」。このうち、「三日月宗近」、「厚藤四郎」、「亀甲貞宗」、「大包平」、「小竜景光」、「大般若長光」の6振が国宝です。さらに、本館では、「鳴狐」と「毛利藤四郎」が展示されています。つまり「獅子王」以外はぜんぶ出ているわけです。

42 太刀 名物 童子切安綱 平安時代

入り口に単独で展示されているのが、太刀 名物 童子切安綱です。単独のケースに入っているのは、この刀と太刀 名物 三日月宗近だけです。

どちらも「天下五剣」で、平安時代の太刀でサイズはほとんど同じですが、三日月宗近が細身なのに対して、童子切安綱は太かったです。さすが酒呑童子を切ったとの逸話のある刀。平安時代は公家たちが使ったので細身だったとされていますが、平安時代後半には武士も台頭してくるので、こうして、2種類のタイプの刀がでていたのかなと思いました。

Colbaseより

2回目も同じ感想で、武士の世の到来を想像させる力強い迫力がありました。

43 太刀 名物 三日月宗近 平安時代

人気ゲーム刀剣乱舞の主役といってもいい三日月宗近。天下五剣のひとつです。三日月の名前の由来は刃文に三日月のような浮いた模様がいくつもあるからです。去年、トーハク本館1階の刀剣コーナーで展示された際にも見たのですが、そのときは肉眼ではそこまではっきりと見えませんでした(単眼鏡ではもちろん見える)。ところが、今回の展示では、肉眼でも三日月が楽々に見えました。室内の照明自体は本館1階のほうがだんぜん明るいのに、ほかのもですが、ガラスの映り込みとかも少なく、とても見やすかったです。かなり照明に工夫されているのが国宝刀剣の間です。

2回目も、「三日月」も見ることができましたし、裏からもじっくり見ました。もちろん圧倒的な洗練と美しさでしたが、今回は国宝19振をわりと時間をかけて、それぞれの印象を持てるように鑑賞したので、前回のたくさんの刀剣が並ぶ中で、ちゃんと見た三日月宗近だけを、圧倒的な存在感との印象を持ちましたが、その思いは薄れました。単にほかの刀剣をちゃんと見ていなかっただけで、やはり国宝刀剣はそれぞれにすばらしかったからです。

Colbaseより

童子切と三日月以外は3方向の壁のケースに並んでいます。手前から展示順に紹介していきます。

44 太刀 銘 備前国友成造 平安時代

「国宝刀剣の間」の入り口に童子切が単独ケースにあり「強そう」を浴びたあとに、次にあらわれる刀剣です。「強そう」に比べると、細くて綺麗に感じました。

太刀 銘 備前国友成造 Colbaseより

45 太刀 名物 大包平 平安時代

前回は、「刀剣乱舞のトーハク組の6振目、正直覚えてないです。次回はもっと見ようと思います」と書きました。この「大包平」はその後、マッカーサーから譲られるよう求められた所有者が「ニューヨークの自由の女神と交換するなら良い」と言ったとか、嘘か誠か、バキ級の逸話を知りました。その上で見ると、たしかに迫力が半端なかったです。前回スルーしていたかと思うと、やっぱり事前の学習は大事ですね。

Colbaseより

46 太刀 銘 定利 鎌倉時代

これは反り方や太すぎず細すぎずTHE日本刀。「スタンダード日本刀」という言葉が浮かんだのですが、それは作者の名前が綾小路定利といって、「定規」という単語がふと浮かび結びついたからかもしれません。

太刀 銘 定利 Colbaseより

47 短刀 名物 厚藤四郎 鎌倉時代

国宝の短刀は2振だけなので視覚的に目立ちますから前回もその存在は認知していましたが、2回目は名前の由来である「厚さ」をじっくり腰をかがんで確かめました。もともと厚藤四郎は高い位置に置かれています。おそらく厚みを鑑賞するためだと思います。それにしても短刀はずぶりと刺すんですよね。その切っ先の鋭さと厚みにはぞぞっとしました。

厚藤四郎 Colbaseより

48 太刀 銘 来国光 嘉暦二年二月 鎌倉時代

2つ前の太刀 銘 定利は、定規との連想からスタンダードという感想を持ちましたが、こちらの来国光は見たまんまの印象でスタンダードだなと感じました。解説読むと「健全」と書いてあるので、そこらへんがスタンダードに感じたことなのだろうかと思いました。健全の意味がよくわかりませんが。

太刀 銘 来国光 嘉暦二年二月 Colbaseより

49 短刀 銘 行光 相州行光 鎌倉時代

もう1振りの短刀です。とても綺麗でした。短刀は刃文とかよりも全体のフォルムの美しさをど直球で攻めている気がします。厚藤四郎よりは薄かったです。

短刀 銘 行光 Colbaseより

50 刀 金象嵌名 城和泉守所持 正宗磨上 本阿(花押) 鎌倉時代

Colbaseより

なんともまがまがしい印象。これまでスタンダードな美しさをもつ日本刀が並んできたので、「にえ」という刃文が大きくて波打って、まがまがしさを強調していました。作者は正宗ですが、持っていた人(家康に仕えた旧武田家臣の城和泉守)と鑑定した人(本阿弥家)の名前が持ち手に刻んでいます。

51 刀 名物 観世正宗 鎌倉時代

作者は同じく正宗。2回目は、たまたまだったみたいですが、ライティングのために、刀身が赤く黒く輝いていました。3回目は普通だったので、やはり前回が偶然だったのでしょう。
能楽の観世流が所持していて、家康に献上したことから観世の名前がついている正宗。見た目ではなぜ観世か分かりません。

Colbaseより

52 刀 名物 亀甲貞宗 鎌倉~南北朝時代

隣の観世正宗が赤く光ってまがまがしすぎたためか、次ぎの亀甲貞宗は刃文の流れもすごく清純な美しさを感じました。

Colbaseより

53 梨地螺鈿金装飾剣 平安時代

Colbaseより

ここから2つ目の壁面になります。前回は、「19振りのうち17は刀身だけで、柄などのこしらえは後の時代に用意されたもので、国宝ではありません。その中で、この2振りだけはこしらえも平安時代と鎌倉時代の制作時のものが残っているのです。これも次回、ちゃんと見たい逸品です」と、全く記憶なし。ちゃんと見たらすばらしい品々でした。

まずは梨地螺鈿金装飾剣。ほかの日本刀とは違う剣です。刀身も出されていなく、外側(こしらえ)を鑑賞するものです。まぁ、なんたる豪華。正倉院宝物っぽいデザインは、奈良時代から伝わるもので、平安王朝の公家がはいた剣だそうです。蒔絵で全面に金色に螺鈿で鳥を装飾するなど、とにかくステキです。刀剣の分野になっていますが、どちらかというとむしろ法隆寺宝物に近いジャンルかもしれないですね。

54 群鳥文兵庫鎖太刀 刀身銘 一(上杉太刀) 鎌倉時代

上杉家が三嶋大社に奉納したいわれから上杉太刀と名前がついています。鎌倉時代の刀身だけでなくこしらえがあるのは奇跡的(だいたいは江戸時代にこしらえだけ新造している)です。全体を金の蒔絵にしています。豪華さとシンプルさが兼ね備わっているという点で、さきの平安時代の王朝の剣の豪華一点突破とは対照的な武士の美といえるかもしれません。

群鳥文兵庫鎖太刀 刀身銘 一(上杉太刀) Colbaseより

55 太刀 銘 助真 鎌倉時代

太刀 銘 助真

ここからは3つ目の壁です。福岡一文字という流派のものが続きます。激しい作風で、ぶっとくて「やばそう」。さらに波打つ刃文がなんとも荒々しい。こういうとあれですがほとんど「野蛮」な空気すら漂っています。

56 太刀 銘 吉房 鎌倉時代

太刀 銘 吉房

こちらも福岡一文字。やっぱり一文字はぶっとくてごつい。とてもマッチョな感じです。

57 太刀 銘 吉房(岡田切) 鎌倉時代

さらに福岡一文字。一文字はやばいな、怖いなと思っていたら、最後の福岡一文字はさらに逸話も強烈。やっぱり一文字やばいとなりました。ちなみに福岡は、備前の福岡(岡山県)です。
この岡田切の刃文は、まるで血を求めてうごめく生きた波のような激しさとまがまがしさです。
そのうえ、こんなエピソードがあるというではありませんか!恐ろしい。実際に血を吸っていてもおかしくないくらいの妖しい刃は、実際に血を吸っていたという。

15世紀に大きな勢力をもった織田信長という武将の次男、織田信雄(おだのぶかつ)が1582年の合戦の際、家臣の岡田重孝をこの太刀によって切ったということから「岡田切」と呼ばれています。(Colbaseより)

太刀 銘 吉房(号 岡田切)Colbaseより

58 太刀 銘 長光 鎌倉時代

ここから3振は長船派です。一文字の素でやばい兇刃さと比べると、激しい刃文もデザインして意識的に激しくしているという印象を抱きました。

太刀 銘 長光 Colbaseより

59 太刀 大般若長光 鎌倉時代

大般若の意味は、般若が刻印されているのではありません。この太刀の価値を金銭で換算すると600貫目(もちろん高いという意味)。600カンは、大般若経が全600巻なので、同じだ!じゃあ大般若という、こじつけです。
値段の高さとは関係ないでしょうけど、刃文を意識的に大きく見せるということをしているように思いました。

太刀 銘 長光(号 大般若長光)Colbaseより

60 太刀 小龍景光 鎌倉時代

国宝の最後です。3期目は全60件でした。
トリを飾る小龍景光という号は、こちらは実際に龍が刻印されているからです。のちの時代に、便利なようなにと短くされたときに、半分しか見えなくなったので、「小」龍となりました。
急に刃文がおとなしくなったように感じました。しかし、利器としての刀としては究極的に利便性を追求してさらにずしりとした重みを感じました(持ったわけではありませんが)。
そんなこともあるからなのか、江戸時代には人切り役人が所持していた刀だそうです。

Colbaseより

今回の国宝カードは?

1期目に行くともらえたスタンプラリーに参加するともらえる国宝カード。1期目は後期に出る片輪車蒔絵螺鈿手箱でした。

2期目は東洋絵画で前期の出山釈迦。

3期目は、法隆寺宝物の灌頂幡でした。

なお、国宝カードは、上野駅のアトレのレストランの一部で、コラボメニューをやっていて、それを頼むと2枚もらえます。

さて、ショップのことも書いておくと、2期で売り切れていたぬいぐるみは埴輪の小さいのがありました。2期では売り切れていた19種の国宝刀剣缶バッジカプセルトイに加えて、アクスタも売り切れ。刀剣乱舞グッズは、新しくポストカードやA2ポスターなどが売られていました。

混み具合も、混んではいるちゃいるけど、去年の鳥獣戯画展に比べれば、待っていればちゃんとガラスの目の前まで行けるくらいでした。

ただ、単眼鏡をそろそろ買い換えようかなと。今は4倍(一番安い)のを使ってますが、8倍(1万円後半)にしたいと。列の後ろの方からもアップで見れそうなので。

後期の要チェック作品は?

1期目と2期目は、それぞれ62件です。入れ替えは、「一遍聖絵 巻第七」(2期のみ)と、狩野永徳「檜図屏風」(2期・3期のみ)の2件です。

3期目は後期になるので、大幅に展示替えがされ、総件数は前期に比べて2つ少ない60件です。4期は、日本絵画で、1つOut、2つInで61件になります。

第2部でも後期にだいぶ展示替えがありした。

後期で注目されるのは、重要文化財「直刀 無銘(水龍剣)」(奈良時代)。
また、前期は尾形光琳の「風神雷神図屏風」(重文)が展示されていますが、後期はその裏側に描かれた(現在は分離されている)酒井抱一の「夏秋草図屏風」(重文)が展示されていまsす。

「国宝 東京国立博物館のすべて」は日時指定予約制です。週末はもちろんのこと、平日も午前はほとんど売り切れです。売り切れていても前日に予約キャンセルが出るので買えることもあるみたいです。

東京国立博物館150年特設サイト

 

関連記事

  1. 和銅5年1月28日(712年)太安麻侶が古事記を撰上

  2. 天武10年3月17日(681年) 天武天皇が皇子や臣下らに帝紀・上古の諸事を記定(のちの「日本書紀」)させる

  3. 昭和24年(1949)3月31日 東京消防庁が119番を設置

  4. 元徳4年・元弘2年3月7日(1332年) 鎌倉幕府、後醍醐天皇を隠岐国に流す

  5. 円山応挙の国宝「雪松図屏風」(三井記念美術館)感想

  6. 国立劇場の新春歌舞伎遠山の金さん感想文

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。