現役の禅宗僧侶が書いた神秘体験 第125回芥川賞・玄侑宗久『中陰の花』

21世紀の芥川賞ぜんぶ読むプロジェクトの4作目です。

現役僧侶初の芥川賞

2001年上半期(第125回)の芥川賞に選ばれたのは、福島県三春町の僧侶・玄侑宗久(げんゆうそうきゅう)さんの『中陰の花』。

ストーリーはこんな感じだ。

南東北の禅宗の地域に根ざしたお寺で住職をつとめる40歳くらいの僧侶・則道(そくどう)が主人公。妻の圭子は大阪から嫁いできて、子どもはいないし、あきらめている。

則道は小さい頃から、近所の「おがみや」のウメの家に出入りしていた。田舎にある濃密な人間関係においての、第二の育ての親といったところだろうか。このウメが89歳となり、病院に入院して死のうとしている。
則道は僧侶ながら、ウメの仏教とは異なる超人的な力をまるっきり否定はしていない。そして、妻の圭子もウメのように「見えている」ことがわかってくる。

福島県で起きた「おがみや殺人事件」

この巫女体質の「おがみや」という存在は、田舎でははわりと普通に存在した(している)ようで、地域のカウンセラーのような役割でもあった。

特に本作の舞台福島県では、オウム真理教の騒ぎの最中である1995年に、おがみやの主婦が「信者」6人を祈祷と称して殺した事件があった。

事件の当時はオウム真理教と合わせて「新興宗教」の恐ろしさばかりが喧伝されたが、本作はそれから5年以上が経過しており、地元の僧侶である作者の玄侑宗久さんが、この事件を冷静に「整理」した面も強いのではと感じた。

本書の神秘体験については、禅宗(臨済宗)の厳しい修行の実体験があるからこその、真に迫りながら、一歩冷静に見た表現がすばらしい。

前回芥川賞受賞作の青来有一さんの『聖水』も、小さな地域の新興宗教的な要素が共通するのだが、そのクライマックスに描かれた神秘体験の描写は、あとで本作『中陰の花』を読むと、上っ面な感じがした。

ストーリーとしては、ウメは老衰で死に、主人公夫婦は神秘体験をするというだけで、とりたてて、聖水のようなエンタメ映画的な盛り上がりはほとんどない。だが、終わり方と読後感はたいへん満足感が高い作品だった。

仏教や禅における死生観などを知識として調べたり、学んだりしたことのある人にとっては、かなりオススメの作品である。

中陰とは、ざっくり言うと四十九日のこと。インドでは、「死」と「輪廻転生」までの間を繋ぐ状態を「アートマン」と呼んだ。仏教では、その期間を「7日」×7回で最大49日とし、「中陰」と呼んだ。

評価は星4

ただ、まだ芥川賞4作品しか読んでいないのだが、本作を含めて今のところ3作が「夢イントロ」もしくは「夢オチ」である。この傾向が続くとげんなりしそうだが、次に読む長嶋有『猛スピードで母は』が夢ものでないことを祈る。

まとめると

テーマ死について
歴史的テーマ禅宗 神秘体験
地域福島県

次は長島有「猛スピードで母は」です。

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